こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

大日本人

otello2007-06-07

大日本人


ポイント ★★★
DATE 07/6/4
THEATER 新宿ミラノ
監督 松本人志
ナンバー 110
出演 竹内力/UA/神木隆之介/板尾創路
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


街に現れた怪獣を退治するために、「大日本人」に変身する主人公。もはやスーパーヒーローを必要としなくなった現代における時代遅れの正義の味方が味わう悲哀がセリフの端々から漏れ伝わり、ビジネスとして立ち行かなった職人芸を風刺しているようだ。理想や野望はすでに燃え尽き、一応、仕事だから大日本人をやっている。その後戻りできない中年男の冴えない日常生活を、ドキュメンタリー番組の取材という体裁のなかで、松本は絶妙の間で演じている。


代々、大日本人の家系に生まれた大佐藤は、電気ショックで巨大化し怪獣を倒すことを生業としている。しかし、最近は人気にかげりが見え始め、人々の支持もまばら。そんな時、認知症の祖父が巨大化していたずらを始める。


カメラを持つディレクターの質問に大佐藤が答えるという形で進行する過程における、大佐藤のセリフが非常にリアルだ。古ぼけた家に住み、妻子とはすでに別れ、質素な食事と猫の同居人。仕事はそれほど忙しくないが収入はそこそこ。やり手のマネージャーは広告料で儲けている。そうした生活臭がぷんぷんするシーンを、大佐藤に対する鋭い突っ込みと光量不足でピントの甘いカメラでさらなる臨場感を出す。特に、視聴率と広告主ばかりに気を使うマネージャーとのやり取りは秀逸で、人生哲学とビジネスの間に揺れる大佐藤の職業観がよく描けている。


大日本人は赤い獣にやられたり赤ちゃん獣を殺したりして人気下降、更なる方向転換を求められるが有効な決め手はない。この映画自体もその袋小路に迷い込んだようで、物語にケリをつけるため、実写のスーパーヒーローものに転調する。それは、CGに飽きた観客に新たな驚きを提供するための手段なのだが、4人も実写ヒーローが出てくる割にはパッとせずダレてしまう。結局、大佐藤は4人の協力で赤い獣を倒して平和を取り戻すが、この結末はアイデアの枯渇。しかし、そう思わせておいてエンドロールで長々と反省会をしてまた笑いを取る。最後まで押し付けがましくない松本のサービス精神があふれ出ていた。


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