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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あるスキャンダルの覚え書き

otello2007-06-12

あるスキャンダルの覚え書き NOTES ON A SCANDAL


ポイント ★★*
DATE 07/6/9
THEATER TOHOYK
監督 リチャード・エア
ナンバー 113
出演 ジュディ・デンチ/ケイト・ブランシェット/ビル・ナイ/アンドリュー・シンプソン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


家族も友人もなく、日々綴る日記帳だけが対話の相手。孤独をかかえたまま、プライドだけは高くなり心は狭くなる。そんなベテラン教師の胸に潜む闇と空白をジュディ・デンチが好演。一人で老いていくことへの恐怖と諦めと後悔が、やがて小さな悪意となって周りの人間を破滅に陥れていくさまを丹念に描いていく。一見、人生経験が豊富で信頼できそうな人ほど、腹に隠した一物はどす黒く汚れている。人間の複雑さ、特に愛に飢えている女の感性がとてもリアルで、そこに英国の階級格差を絡ませて許されない恋の行方に期待を添える。


バーバラが教鞭をとる学校に美術教師のシーバ赴任してくる。シーバは生徒と恋に落ちその秘密を知ったバーバラは克明な記録を残し、シーバを支配下に置こうとする。やがてシーバの恋は世間の知るところとなり、一大スキャンダルに発展する。


一人暮らしのバーバラの寂しさと、その裏返しのようなシーバのにぎやかな生活。正反対の人生を送るシーバをバーバラはねたみ、その幸せを壊そうとしたのだろうか。さらに厳格な教師然としたバーバラは、アルバイト感覚のシーバの教師としての意識の低さに腹立ちを覚えてもいたのだろう。教師の質の低下に加え、生徒との痴情、そこにさまざまな要素が入り混じった同性に対する嫉妬が狂気を帯びていく過程がとてもスリリングだ。


しかし、そういった映像をサポートするはずの音楽があまりにも耳障り。怒り、いらだち、あせり、困惑。そういった感情を音楽を添えることでより効果的に表現するのは映画のセオリーだが、この作品の場合はその音楽が過剰で、シーバやバーバラの張り詰めた気持ちを完全にぶち壊し、音楽だけが独り相撲を取っているようだ。BGMはあくまで映像の添え物なのに、これではB級ホラー映画のセンス。精神的には未熟でも恋には貪欲な女と、日記の中でしか自己を解放できない女の葛藤というドラマにはあまりにも不似合いだった。


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