こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

プレステージ

otello2007-06-13

プレステージ THE PRESTIGE


ポイント ★★*
DATE 07/6/9
THEATER 109KH
監督 クリストファー・ノーラン
ナンバー 112
出演 ヒュー・ジャックマン/クリスチャン・ベール/スカーレット・ヨハンソン/マイケル・ケイン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ショーを見に劇場にやってきた観客の前だけでなく、マジシャンは生活のすべてをマジックにささげて周りの人間をだまし続ける。そしてその秘密ゆえに同時に孤独も抱えることとなる。タネを知れば気が抜けるほど単純なマジックも、マジシャンが自分の人生を犠牲にして作り上げた作品。世の中に不思議なことなど何もないとわかっていても、そのマジックの裏に壮大な物語を感じ取って観客は驚嘆し感動するのだ。しかし、それは科学で説明でき、理性で納得できる範囲内での話であって、いくら100年以上前に時代設定していてもオカルトを持ち込んだのは失敗だった。


19世紀末ロンドン、アンジャーとボーデンは共に独創的なマジックで人気を得るが、アンジャーの妻がボーデンの不注意で死んだことからお互いに足の引っ張り合いをし始める。やがて2人は「瞬間移動」のマジックで争うことになるが、そっくりさんを使ったアンジャーに対し、ボーデンの芸は完璧。


現在、過去、さらに大過去と、映画の時制は頻繁にシャッフルされる。疑問が解決したと思ったら次の疑問を呼ぶという構成は、何気ない伏線となって別のシーンで生きてくる。中国人マジシャンを見てボーデンがつぶやく一言が作品のすべてを言い当てているのだが、ボーデンと妻の不仲の原因や、アンジャーが送り込んだ愛人とボーデンの関係など、マジシャンとして周囲の人の心を操るボーデン同様、映画は巧みに観客の思考を揺さぶる。


結局、ボーデンの「瞬間移動」は一卵性双生児である2人のボーデンがたくみにすり替わっていたという単純なもの。しかしその芸のためにボーデンはあらゆることを犠牲にし、妻すら欺いてきた。その強烈な生き様こそこれぞマジシャンというべきものだろう。一方のアンジャーはさらに大掛かりな「瞬間移動」芸を完成させるが、それは電気仕掛けでクローンを大量に作るというもの。しかも肉体だけでなく思考や記憶、感情まで完全なクローン。せっかくボーデンのタネ明かしにだまされる爽快感を味わったのに、ここまでくると完全にトンデモ科学の域で、驚愕のラストというよりあほらしいという不快感しか残さなかった。


↓メルマガ登録はこちらから↓