こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

キサラギ

otello2007-07-02

キサラギ


ポイント ★★★★
DATE 07/6/30
THEATER 109MM
監督 佐藤祐市
ナンバー 128
出演 小栗旬/ユースケ・サンタマリア/小出恵介/香川照之
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


限定された空間の中で研ぎ澄まされた言葉が飛び交うさまは、一幕芝居を見ているような緊張感。二転三転する展開は一瞬も息を抜けないミステリー。そして、一人の女性の死が引き合わせた5人の男の人生が、本人たちの知らないところで交錯していたという運命の不思議。役割が計算された配役と周到に練り上げられたセリフは密室劇の王道を忠実に実践しているが、登場人物が全員事件の直接の関係者という設定がユニークだ。深まる謎と明らかにされる秘密の配合が調和し、善意が生んだ悲劇を見事に昇華する。


自殺した三流アイドル・如月ミキを追悼しようとビルの一室に集まった5人の男たち。ミキの思い出話で盛り上がるはずが、死因に疑問を持つ男が他殺説を唱え、集会は殺伐とした犯人探しの場に変貌する。


この集会がミキのファンサイトの管理人が主催したオフ会という設定が今風でリアルだ。サイトの書き込みで名前と考え方は知っていても実際に会うのは初めて。お互いがお互いの人物像に想像を膨らませていて、期待通りだったりがっかりしたり。サイトのテーマに関する以外の情報は何も知らない人間の集まりだけに、主催者が会を盛り上げようと非常に気を使ったりもする。そのあたりの導入部が非常によいできばえで、思わず参加している気分にさせられる。


やがて討論が進むにつれ、参加者がみなミキと非常に近い関係だったことが明らかになっていく。顔の見えないネット上にその関係を書き込んでも、荒らしの厨房と放置されるのがオチで、たとえ本当のことであっても他人には明かせなかった彼らの心理がとてもよく描かれている。それゆえ、それぞれが隠された事実を小出しにして真実にたどり着こうとする過程は、自分だけが知っているミキの素顔と、自分が知らないミキの人柄を縒り合わせる作業だ。そして出来上がったミキの人格は、それぞれが信じていた清純派のイメージにぴったり。それは彼らによって都合のいいイメージであり結論でもあるのだが、5人で作り上げたミキの虚像に酔うシーンに、アイドルという儚さに自己投影するファンの純粋な気持ちがよく表現されいた。


↓メルマガ登録はこちらから↓