こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アヒルと鴨のコインロッカー

otello2007-07-09

アヒルと鴨のコインロッカー


ポイント ★*
DATE 07/7/7
THEATER チネチッタ
監督 中村義洋
ナンバー 134
出演 濱田岳/瑛太/関めぐみ/松田龍平
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


観客は、語り部となる主人公の目を通して奇妙な出来事を体験し、主人公と一緒になって伏線をたどりながら謎を解いていくというのがミステリー映画のルール。その過程で、他の登場人物が語るウソを映像化して観客をさんざんミスリードした後、「アレは全部うそでした」とばかりに真相を語る映像を入れるというのは一番やってはいけない禁じ手なのに、「ユージュアル・サスペクト」以来、こんな安手の手法が「どんでん返し」と思っているアホが多いのは困りものだ。考え抜かれたトリックでだまし、張り巡らせた伏線で真実に導いてこそ作家の腕の見せ所。この映画の中村義洋という監督は脚本も兼ねているのに、どうしてそんな初歩的な作業を怠るのだろうか。


一人暮らしを始めた大学生・椎名は河崎と名乗る隣人に声をかけられ、本屋を襲撃する手伝いをさせられる。そんな時、麗子という女と知り合った椎名は、河崎とブータン人のドルジ、そしてドルジの恋人・琴美の不思議な関係を耳にする。


見知らぬ土地での慣れない一人暮らし、そんな椎名の心を見透かしたように河崎と名乗る男は彼の生活に闖入してくる。不思議な日本語と読めない思考、謎の行動。椎名の理性はその男から距離をとろうとするが、心は惹きつけられている。一方で、彼が信じるなと言った麗子はまったく違う話をする。何がどうなっているのか、誰が本当のことを言っているのか、新しい人間関係と相反する二つの世界に戸惑いを感じる椎名の混乱は、そのまま観客の心情を代弁する。しかし、その混乱の元になったのはドルジが付いたウソ。ドルジもまた一人ぼっちで、その心細さを癒してくれた河崎に自分をなぞらえた物語を創作するという気持ちと、琴美の仇を取ろうとする気持ちは分からないではないが、それはあくまで言葉で語るべきこと。繰り返すが、ドルジのウソを映像化したのは致命的なミスだ。


後に麗子が語る真実がドルジの底なしの悲しみを代弁し、彼の愛や勇気が孤独と怒りに変容するプロセスで、いかに河崎と琴美のことを思っていたかが明らかになる。もう一度犬を助けようとするドルジと、牛タン弁当を食べて満足そうに眠る椎名、2人の未来は自分たちがコインロッカーに閉じ込められた神によって見捨てられたことを暗示するラストは、あまりにも切なかった。。。


↓メルマガ登録はこちらから↓