こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

傷だらけの男たち

otello2007-07-11

傷だらけの男たち 傷城


ポイント ★★
DATE 07/5/14
THEATER 東芝エンタテイメント
監督 アンドリュー・ラウ/アラン・マック
ナンバー 95
出演 トニー・レオン/金城武/スー・チー/シュー・ジンレイ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


謎めいた過去を持つ男と、満たされない現在を過ごす男。お互いの心の隙間を埋めるように2人の男は運命に導かれていく。そして彼らを待ち受けているのは、悲しみに満ちた未来。愛するものを失う痛みを胸に、偽りの人生と暴力の衝動にに苦しめられる主人公を、トニー・レオンはクールに演じる。しかし、あっさりとタネあかしをしてしまい、せっかくのミステリーの味わいを壊している。複雑に絡み合った糸をほぐすような快感もなく、物語は無駄にゆらぎ、焦点があいまいになっていく。


ラウ刑事の妻・スクツァンの父と執事が惨殺され、犯人も仲間割れして死ぬという事件が起き、スクツァンはラウの元部下で私立探偵のポンに事件の解明を依頼する。ポンは犯人はラウではないかと疑い、調査するうちにラウの意外な過去を突き止める。


ラウもポンも限りない喪失感を心に抱きながら生きている。ラウはそれをひた隠しにしているのに、ポンはアルコールというわかりやすい逃げ道を作っている。そのあたりの2人の性格付けは成功している。しかし、ポンが捜査に加わったとたんに犯行現場を再現して、ラウが強盗事件の犯人だということをばらしてしまっていいものだろうか。もちろんそれはポンの推理という形で描かれているが、もたもたしているうちに、ラウはスクツァンまで手にかけてしまうのだ。そのあたり、刑事と妻、そして探偵の心理的な駆け引きもなく、だらだらと映画は進行する。


結局、スクツァンの父が28年前に殺した家族の生き残りがラウで、ラウ自身身分を変えたうえ刑事になってスクツァンに近づき復讐の機会を狙っていたというオチ。しかしその過程で、愛する夫に命を狙われているスクツァンの恐怖とか、かつての上司を疑わなければならないポンの逡巡、何より仮面生活を送るラウの苦悩がまったく描かれていない。メタルフレームのめがねをかけたトニー・レオンが、感情を抑制しすぎて残虐な殺人犯に見えないところが致命的だった。


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