こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

魔笛

otello2007-07-13

魔笛 THE MAGIC FLUTE


ポイント ★★★*
DATE 07/3/29
THEATER スペース汐留
監督 ケネス・ブラナー
ナンバー 62
出演 ルネ・パーペ/リューホフ・ペトロヴァ/ジョセフ・カイザー/エイミー・カーソン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


飛び交う銃弾と炸裂する砲弾に撃たれて、兵士たちが次々と崩れ落ちる地獄のような戦場に響き渡る天国の音色。そのミスマッチが見事なハーモニーを生み出し、CGを多用した流麗かつ変幻自在のカメラワークはモーツァルトの傑作に新たなイマジネーションを吹き込んでいる。さらに善悪など立場が違えば簡単に逆転する一方、寛容・友愛・平和といった価値観は普遍であるという原作のテーマはそのままに、舞台を第一次大戦のとある前線に置き換えることで、反戦の決意を新たに付け加える。


毒ガスで意識を失った兵士・タミーノは3人の看護兵に救われ、彼女たちからザラストロに拉致された女王の娘・パミーナを救出するように頼まれる。タミーノはパパゲーノとともにザラストロの陣営に潜入する。


夜の女王とザラストロはお互い一国の支配者として大規模な戦争を継続中。ザラストロの陣営では戦場で命を散らした兵士たちの無数の墓標が大地を埋め尽くす。ほとんどはまだ10代の若者で、平和は命の犠牲の上にあることをこのシーンは饒舌に物語る。また、パパゲーノがパパゲーナの愛を得る、このオペラにおいていちばん愛に満ち溢れたシーンの舞台は、なんと戦場に打ち捨てられた廃墟というのが意表をつく。ここを愛の巣として2人で復興していく過程で人間の持つ力強さを端的に示している。


ただ、ザラストロも愛と寛容で国を支配しているが、それを口にすること自体カルト教団の教祖のような胡散臭さ。舞台が現代に近いだけに、見方を変えれば独裁者という危険が伴う。彼の言葉の甘美な響きの裏にある危うさをもう少し斜に構えた角度、たとえば小悪党の裏切り者・モノスタトスの視点で物語を見つめ、絶対的な権力のもつリーダーの暴走を止めるられるものが誰もいないことの恐怖を皮肉るくらいのエスプリは欲しかった。そうすることで戦場を舞台にした意味も明白になってくると思うのだが。。。


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