こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

私たちの幸せな時間

otello2007-07-17

私たちの幸せな時間


ポイント ★★★*
DATE 07/4/3
THEATER 映画美学校
監督 ソン・ヘソン
ナンバー 64
出演 カン・ドンウォン/イ・ナヨン/ユン・ヨジョン/カン・シンイル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


母親に拒絶された子供たちの心は歪み、自分自身を大切にしなくなる。それは大人になっても変わらない。しかし、自分のことを本当に理解し、思ってくれる人が現れたときに初めて自分自身がいとおしいものに思えてくる。愛したい、自分の人生に意義を見出したい、そして何より生きたいと願うようになったときに命を奪われるというという一見残酷な死刑という制度。それは、凶悪な殺人犯として死なせるのではなく、自分が奪った命の尊さを思い出させ、心を持った人間として死なせてやろうとする司法の冷酷さであり温情でもある。


自殺未遂をしたユジュンは、ある日死刑囚のユンスに面会に行く。ユンスの弟は死ぬ間際までかつてユジュンが歌った「愛国歌」を口ずさんでいたという。ユンスの中に自分に似たものを感じたユジュンは、やがて足しげく刑務所に通うようになる。


程度の差こそあれふたりの境遇は相似形だ。他人を拒絶し早く死にたいと思っている。ただ、ユンスには死んだ弟への思いと孤児として悲惨な経験しているために甘えはなく、安易に彼の気持ちを理解することなどできない。手持ちカメラの微妙な揺れが面会室でぎこちない会話を続けるふたりの心理を象徴する。その過程でユジュンもまた封印していたトラウマをユンスに打ち明け、初めてふたりの心はひとつになる。


ユンスを担当するイ刑務官のまなざしの優しいこと。いつしか観客も彼の視線でふたりを見守ることになる。ユンスに親身に接し、ユジュンとの会話に耳を傾け、心の底から彼の平安を願う。しかし、改心したことが明らかになると刑が執行されるという矛盾。死刑囚たちに「どうせオレは死刑だ」と投げやりな態度から、もっと生きていたいと思わせる。それが自分の職務とはいえ、死刑囚を思いやる気持ちが強いほど刑の執行が早まるのだ。いつも遠くを見るような彼の細い目は、限りない悲しみにあふれているようだった。


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