こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

恋するマドリ

otello2007-08-20

恋するマドリ


ポイント ★★
DATE 07/8/18
THEATER TOHOYK
監督 大九明子
ナンバー 163
出演 新垣結衣/松田龍平/菊地凛子/中西学
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


突然の妊娠、突然の失踪、突然の引越し・・・。素敵なことはいつも突然の出来事の後に偶然やってくる。ヒロインが引越しによって新たな生活を始め、ゼロから人間関係を作り上げていく過程は楽しめるが、その偶然性があまりにも作為に満ちていてうそ臭い。ご近所づきあいなどというものが絶えて久しい東京、それでもちょっとしたきっかけで友人はできるということを映画は描こうとしているのは分かるが、少し現実離れしていていかにも脚本家の頭の中だけで考えたような設定だ。


姉と喧嘩して、アパートで一人暮らしをはじめることになった美大生のユイ。早速近所に引越しそばを配って回るが受け取ってくれたのはおばあちゃんだけ。そんな時、以前の部屋に忘れ物があったのを思い出したユイはその部屋の新しい住人・アツコと親しくなる。実はアツコはユイの部屋の前の住人で、元恋人・タカシから逃げていた。


そもそも引っ越していった部屋の前の住人が、自分が前に住んでいた部屋に引っ越していたなどという偶然があるだろうか。引っ越すなら事前に部屋を見るだろうし、引っ越した後も部屋のクリーニングはするはず。どう考えても最低1週間は手続きに必要なのに、その間アツコはどこにいたのだろう。さらにタカシの研究室でユイがバイトを始めるという偶然。二人の事情を知ってしまったユイが何とかよりを戻させようと奮闘するのだが、肝心の本人たちが醒めていて物語りは弾まない。


高層ビル群と古い町並みが同居する北品川という街のたたずまいのなかで、今の自分が悩んでいた過去の自分にアドバイスをし、未来の自分から今の悩みについてアドバイスを受けられたらいい、などという気の利いたせりふや、何でもニッコリというアツコのポリシーには疲れた心を癒す作用が確かにある。だが、アツコやタカシのガツガツしない生き方も、逆にいえば恋愛に対する貪欲さが足りず、本来恋人同士であったはずの2人の間の思いよりも、ユイの彼ら2人のことを好きという感情のほうが強いのはどういうことだろう。20代半ばにしてすでに恋に冷めていて、ユイがおせっかいなおばさんのよう。恋人同士よりもそれを見守る若いヒロインのほうが情熱的という、誰に感情移入してよいかよく分からない映画だった。


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