こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シッコ

otello2007-08-30

シッコ SICKO


ポイント ★★★*
DATE 07/8/25
THEATER TOHOYK
監督 マイケル・ムーア
ナンバー 169
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


大ケガをしても手術をしてもらええず、病気になっても入院させてもらえない。おまけに治療費を払えない患者は公立の医療施設に捨てる。。。医療行為すら営利目的となってしまった米国の現実。結果として金持ちしかまともな治療は受けられず、保険会社と経営効率ばかりを考える病院、そして製薬会社ばかりが儲かる仕組みになってしまう。世界一の経済大国とは思えないような国民の健康をないがしろにした制度、その現場を取材し、他国との比較で問題点を浮き彫りにする。ただ今回はムーア得意の「アポなし取材」がなく物足りない。保険会社や製薬会社のCEOや、彼らが支持基盤の政治家などを直撃してほしかった。


医療費は自己負担という原則の下、高額の請求に苦しむ人々。民間の保険会社は支払いに応じないことで収益を上げ、病院と医師は治療しないことでカネ儲けに走る。一方、カナダや英仏では医療費無料が原則という事実をムーアは知る。


そもそも隣人愛といった助け合いの精神の元で社会は成り立っている。「助け合うのは当然」というカナダ、国民皆保険が国是となっているイギリス、「政府が国民を恐れている」というフランス、あくまでも国の主役は国民であり、政府は国民への奉仕者という精神が徹底しているのだろう。高度先進医療は別として、人が普通に遭遇するケガや病気に対してのケアは非常に充実している。その分、税金が高いといった部分には切り込んでいないし、フランスの労働者に対しては甘やかしすぎとも思える。それでも健康に生きる権利が守られる社会のすばらしさには代えがたい。


最後にムーアは米国の仇敵・キューバに、治療を受けられない米国人患者とともに渡り、その進んだ福祉を知る。キューバの病院は、たとえ外国人でも手厚い看護を施し、治療費は無論タダ。米国では高額の吸入器を1/200以下の価格で買える現実に女性は涙ぐむ。かつて老人やサラリーマンは医療費が無料だった日本もまた米国に近づこうとしているという現状を考えると、海の向こうの他人事では済まされない切実さを感じる。


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