こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サッド ヴァケイション

otello2007-09-18

サッド ヴァケイション


ポイント ★★
DATE 07/9/16
THEATER WMKH
監督 青山真治
ナンバー 186
出演 浅野忠信/石田えり/中村嘉葎雄/板谷由夏
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


密入国の手引きから中国人孤児との生活、自分を捨てた母親との偶然の再会と復讐。二転三転して先が読めないプロットは秀逸で、登場人物もみなどこか秘密めいた過去を持っている。しかし、そんな物語の特性を殺してしまうような間延びした会話と映像。もっと煮詰めて100分ぐらいにまで濃縮していれば引き締まった作品になったはず。宮崎あおいオダギリジョーのエピソードはこの物語に直接関係がなく、彼らのために無駄なエピソードを挿入するのは本末転倒。話が横道にそれてしまい、映画のテンポを乱している。


中国人密航者の手引きをしていた健次は蛇頭とのトラブルで運転代行業に転職、そこで偶然少年時代に自分と父を捨てた母親・千代子と出会う。今は運送会社社長の妻となっていた千代子は健次を運送会社に迎え入れ、ちぐはぐな共同生活が始まる。


血がつながっていない者を本気で心配し、血がつながっている者を心底憎む。幼いときの体験から肉親の愛に不感症になっている健次は、恩人の妹や言葉の通じない孤児の面倒を真剣に見ている。一方で母や異父弟に対するねじれた感情に押しつぶされそうになる。千代子はそんな健次の憎しみをすべて受け止めた上でやさしく包み込む。健次への全幅の寛容は掌中の珠のごとく、何をされても平然としている。必死で過去から逃げようとしている健次に対し、過去よりも未来だけを見ていこうという千代子。映画はその対比を男女の本質的な差異とまで断言し、女性賛美にまで昇華する。


「死んだ人も生きている人もみな忘れ、生まれてくる子供だけを見つづけよう」という千代子はつぶやく。そこには妊娠中の健次の恋人と家出中の娘、レイプ被害の娘もいる。女は過去にこだわらない。子供を生み育てるという、未来への投資が彼女たちの使命であることをきちんと心得ているからだ。いつまでも過去の呪縛に苦悶する健次の姿があまりにも切なかった。


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