こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エディット・ピアフ 愛の賛歌

otello2007-09-28

エディット・ピアフ 愛の賛歌 LA VIE EN ROSE

ポイント ★★★
DATE 07/8/2
THEATER シネマート
監督 オリヴィエ・ダアン
ナンバー 154
出演 マリオン・コティヤール/ジェラール・ドパルデュー//
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


愛を歌うものは愛を失ったとき初めて愛の真実を知る。幸せの絶頂から一転して不幸のどん底に落とされ、そのつらさをエネルギーに転化する。恋人が飛行機でやってくるのを心待ちにしながら夢と現の間をさまよった挙句、彼の事故死を知り、悲しみと絶望の中で胸も張り裂けんばかりの歌声で聴衆を前に新曲を絶唱する。この、映画の中核をなす「愛の賛歌」誕生秘話は、美しい上に力強く、なおかつ儚いほどの短い人生しか与えられなかったエディット・ピアフという歌手の生き方を凝縮しているようだ。


母に捨てられ娼館で育てられたエディットは街頭で歌い日銭を稼ぐようになる。そんな時クラブのオーナーに才能を見出され舞台に出演、たちまち人気者に。やがて本気で歌手を目指し始めたエディットは音楽家の元で歌に感情を込める術を学び、大スターとなっていく。


声には恵まれたけれど、普通の幸せには恵まれなかったエディット。歌手としての名声は高まるにつれ、彼女が彼女でいられるのはステージに立っているときだけになっていく。普段の話し声はつぶれたようなダミ声、それが舞台に上がると心をとろかすような甘い響きに変容する。映画は成功の階段を駆け上っていく過程と、酒と薬に体を蝕まれ40代にして老婆のように衰えていく姿を交互に見せることで、エディット・ピアフといえどもその絶頂期は一瞬であることを残酷に描く。しかし、その一瞬は人々の記憶に長く残り、後世に伝えられる強烈なきらめきを放つのだ。


猫背で上目遣いだったエディットが猛特訓を受け、その成果を見せる初舞台がすばらしい。彼女の歌う姿とそれを聞く聴衆、やがて彼女の緊張が笑顔に変わり、聴衆は立ち上がって拍手を送る。登場人物の表情だけで成功を表現するというエスプリ。見るもののイマジネーションを刺激する見事なシーンだった。幸せを知らず人生の絶望をアンニュイに歌った母に対し、愛と希望を歌ったエディット。うれしかった記憶、楽しかった思い出、それらが鮮明によみがえった彼女は寂しい晩年とはいえ幸せだったに違いない。


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