こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ONCE ダブリンの街角で

otello2007-11-12

ONCE ダブリンの街角で


ポイント ★★★★
DATE 07/11/9
THEATER シネ・アミューズ
監督 ジョン・カーニー
ナンバー 227
出演 グレン・ハンサード/マルケタ・イルグロヴァ/ヒュー・ウォルシュ/ゲリー・ヘンドリック
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


街角の小さな出会いが大きな希望を育てる。うだつの上がらないストリートミュージシャンチェコから来た出稼ぎ労働者。カネはなくても語るべき夢があり、訴えたい愛がある。男は突然消えてしまった恋人への想いを断ち切れず、女は故郷に置いてきた夫との関係を見直そうとしている。そんなふたりが歌を媒介して心を通わせ、つかの間同じ目標を追う。全編手持ちカメラで撮影されほとんどがロケという低予算映画でありながら、温かい人間の感情を余すところなくとらえる演出は見事。感傷的な音楽も耳に心地よい。


ギターを片手にダブリンの街頭に立つ男の歌を褒める女。女は男に掃除機の修理を頼んだことから仲良くなり、今度は女がピアノの演奏を男に聞かせる。メジャーデビューを目指す男は女に伴奏を頼み、録音スタジオを借りに行く。


バスの中で女が男を質問攻めにする。男はその答えをすべてギターのメロディにのせて答える。男は失恋の痛手が癒えず、未練がましくその気持を歌にする。幸せだった日々が恋人の嘘で音を立てて崩れ、人生に暗雲が垂れ込める。もう若くない男にとって立ち直るには余りにも傷が大きい。そんな思い出が堰を切ったようにあふれ出し、女の心に染み込んでいく。若くして出産しシングルマザーとして生活に追われている女にとっても、切ない恋の歌は自分に向けられているように思えたのだろう。ふたりはお互いの境遇に惹かれあっていく。


男の作った歌はスタジオマンも瞠目するほどの出来栄えで、無事録音は終了する。まだ成功するとは限らない、それでも最後のチャンスをものにするために男はロンドンに旅立つ。男は女を誘うが、女には娘も母もいる。半分本気で半分社交辞令、女は喜ぶが本気にはしないことを分かっている。自分の夢に向かって歩き始めた男が、ピアノを女に送ることで彼女の幸せを願うシーンは、人情の機微が非常に繊細に描かれていた。

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