こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カルラのリスト

otello2007-11-19

カルラのリスト LA LISTE DE CARLA


ポイント ★★*
DATE 07/11/6
THEATER 松竹
監督 マルセル・シュブバッハ
ナンバー 225
出演 カルラ・デル・ポンテ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


鋭い眼光は妥協のない意思、スイス・ハーグ・ユーゴを飛び回る旺盛な行動力と粘り強い交渉術で戦争犯罪者を追い詰めていく。国境を越えた権限で根気強くあぶり出し、国際刑事法廷に引きずり出す。ひとりの女性国連検察官の仕事姿を通じて、旧ユーゴで起きた大虐殺の真実に迫ろうとする。24時間の警備体制、各国首脳との駆け引き、そして国連での演説。彼女の精力的な活動を追い、最高機密に属するような情報を扱う人々の姿をとらえるが、そこに描かれているのはあくまで表の顔。もう少し泥臭いところを見せてくれなければ、広報フィルムの域を出ない。


ユーゴ紛争中に起きたスレブレニツァ大虐殺の首謀格2人の行方を捜すカルラ。だが、当事者国の非協力のせいで捜査はなかなか進捗しない。一方、クロアチア政府の協力で大物戦犯が1人逮捕される。


10人の顔写真が並んだ国際指名手配ポスター。すでに拘束された者の顔には×印がつけられているが、カルラの任期も期限が切られ全員の逮捕は絶望的。時に政治の厚い壁に阻まれて情報提供を拒まれ、時に米国が交わした密約に妨害される。そんな時、「無力感を感じることはないか」という演出家の問いにも、そこで挫けたら負けと答え、新たな交渉材料を探す。EU加盟や経済制裁をちらつかせ、時に過激な言葉で交渉相手をねじ伏せようとする。しかし、その語り口はあくまで理性的で感情を表に出すことはない。


正義を実現するために命を捧げるような働き方をするカルラの高潔さを描く作品の志の高さは理解できる。それでもどこか遠いところの出来事にしか見えないのは、現場の映像が少ないからだろう。もちろんカルラ自身、虐殺の現場に赴き遺族と言葉を交わすことを忘れてはいない。それでも彼女はあくまで高級官僚であって自ら汗を流し手を汚すことはない。「事件は会議室で起きている」的な物足りなさが最後まで拭いきれなかった。

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