こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

再会の街で

otello2007-12-22

再会の街で REIGN OVER ME


ポイント ★★★★
DATE 07/11/21
THEATER ソニー
監督 マイク・バインダー
ナンバー 237
出演 アダム・サンドラー/ドン・チードル/リブ・タイラー/サフロン・バロウズ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


愛するものをすべて失い、悲しみに押しつぶされずに生きていくには、精神を別のチャンネルに変えていくしかないのか。もはや人生に立ち向かう気力もなく、後悔だけが押し寄せてくる日々。誰の顔を見ても思い出し何もしていても頭から離れない、その記憶は他人が触れると割れてしまう風船のように張り詰めてもろい。髪を伸ばしやつれた風貌で、心に深い傷を負ったまま立ち直れないでいる主人公をアダム・サンドラーが好演。彼の瞳に宿った細く深く鋭い光が見るものの胸を射抜く。


歯科医のアランは街で偶然学生時代のルームメート・チャーリーと出会う。しかしチャーリーはアダムのことをすっかり忘れているばかりか、様子も少しおかしい。やがてアランは、チャーリーが911テロで妻子を亡くし、それ以後変調をきたしていることを知る。


アランは友人としてチャーリーに力を貸そうとするのだが、チャーリーは家族のことに触れられると突然怒りだす。人の死に対しては鈍感になっていて、アランの父が死んだという知らせが入っても執拗にアランを遊びに誘う。チャーリーは現実の世界ではなく仮想空間に生きているかのよう。思考と感情のバランスが崩れ正気を保てない自分にかまわないでほしい。でも、やはりどこかで見守っていてほしい。そんな繊細で複雑な被災者遺族の気持ちを上から目線ではなく、同じ視点から受け止めることの大切さが身にしみる。


裁判所で亡くなった家族の写真を見せつけチャーリーを責める法律家のおかげで、チャーリーは誰が自分の味方かをはっきりと知る。そしてやっと家族について語り始める。何度もキッチンをリフォームする理由や娘の思い出。やっと新しい一歩を踏み出し始めたチャーリーの姿に一抹の希望が宿る。ビルに飛行機が激突する映像やランドマークも出てこない、それでもあちこちにニューヨークという街の懐の深さを感じさせる映像がふたりの物語の背景として挿入され、リアリティを醸し出していた。



↓メルマガ登録はこちらから↓