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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

暗殺・リトビネンコ事件

otello2008-01-08

暗殺・リトビネンコ事件


ポイント ★★★
DATE 07/10/9
THEATER 映画美学校
監督 アンドレイ・ネクラーソフ
ナンバー 203
出演 アレクサンドル・リトビネンコ/マリーナ・リトビネンコ/アンナ・ポリトコフスカヤ/ボリス・べレゾフスキー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


暗殺、それも事故死や病死に見せかけるのではなく、特殊な毒物によって徐々に健康を蝕みついには衰弱死させる。しかもその過程が報道されることを計算して、同じように組織に歯向かう者に対する強烈な見せしめとする。共産党のくびきを解かれルールなき自由競争の荒波にもまれた'90年代のロシア。これは、権力と武力を持つものが世の中を支配するという暗黒街さながらの犯罪国家に陥った祖国の腐敗に対し、公然と反旗を翻した男の記録だ。この国に理性ある民主主義が根付くのはいつのことだろうか。


'06年11月、元FSBロシア連邦保安庁)中佐・リトビネンコがロンドンで毒殺される。彼はポロニウム210という通常では手に入らない放射性物質を飲まされ、頭髪がすべて抜け落ちた上に息を引き取る。リトビネンコはかつてFSBによる暗殺やテロ、汚職の数々を告発し何度も当局に拘束されていた過去を持ち、イギリスに亡命していた。


ネクラーソフ監督の告発はチェチェン紛争にまでさかのぼる。連邦離脱を図るチェチェンに対し、武力行使、そして休戦。ところがその後、アパート爆破や劇場占拠などロシアに対するテロ行為が頻発し、その脅威を取り除くための掃討作戦という位置づけでチェチェンを制圧しようとする。しかし、それらのテロはロシア側の自作自演で、犯人の1人が後にプーチン大統領の側近になってというのだ。そしてその情報を報道した記者も暗殺され、ネクラーソフ自身の身にも危険が迫る。


腐敗した権力、そして組織を守るためには暴力も辞さない。プーチン大統領が関与しているという疑惑。決して国内では自浄作用が働かず、正義を訴える者は確実に消されてしまう。KGBの流れを汲むというロシアの保安組織の徹底した冷血に身がすくむ思いだった。ただ、ドキュメンタリーとしてはもう少し、事件の背景や他の登場人物の解説が欲しかった。


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