こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジェシー・ジェームズの暗殺

otello2008-01-14

ジェシー・ジェームズの暗殺
THE ASSASSINATION OF JESSE JAMES BY THE COWARD ROBERT FORD

ポイント ★★★*
DATE 08/1/12
THEATER WMKH
監督 アンドリュー・ドミニク
ナンバー 9
出演 ブラッド・ピット/ケイシー・アフレック/サム・シェパード/メアリー=ルイーズ・パーカー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


雪に覆われた荒野、枯れ木ばかりの林、凍りついた川、流れる雲・・・。陰鬱で荒涼とした米国中部の自然は、人間を寄せ付けない毅然とした美しさと厳しさを持つアウトローを象徴しているようだ。その、悪魔のように冷たい青い瞳は人の心を見透かすような魔力を持ち、見つめられた人間はすくみ上がりその狂気に抗うことはできない。物語はそれ以上に彼の感情に踏み込むことはせず、「何を考えているか分からない男」の描写の域を出ていないが、彼を間近で観察することになる主人公の心理が非常にリアルだ。


南北戦争後、ジェシー・ジェームズ率いるならず者一味にボブという若者が加わる。ボブはジェシーの計画する列車強盗を手伝うが、その後追っ手を逃れるために一味は分散し、ボブはジェシーの側近となる。


ボブはジェシーの伝記を収集するほど彼に心酔していて、憧れの人のそばにいられるだけで有頂天になる。しかし、ボブは現実のジェシーに接するうちにジェシーの猜疑心の強さや短絡的な思考を知る。それにつれ、彼がチンケな男に思えてきたのだろう。保安官や州知事との取り引きにも背中を押され、ボブは自らが胸に抱くジェシーの理想像を汚さないために引き金を引く。果たして、ジェシーは伝説の英雄となり、ボブは裏切り者の悪名を着ることでジェシーの名誉を守るのだ。後に、ボブ自身がボブを演じるジェシー暗殺事件の芝居のシーンで、ボブの気持ち繊細に描かれているが、偶像を殺すことでそのイメージを高めたことは汚名を雪ぐ以上にボブに満足感をもたらしたに違いない。だからこそ自分も、暗殺というジェシーと同じ運命を受け入れるのだ。


天国の日々」を連想させるような詩的な映像と、絵画のように計算された室内シーンの構図。この作品の醸し出す叙情は、ボブを演じたケイシー・アフレックの含蓄豊かな演技によってより深められ、稀有な芸術性に富む映画に昇華された。


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