こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師

otello2008-01-23

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師
SWEENEY TODD:THE DEMON BABER OF FLEET STREET


ポイント ★★★★
DATE 08/1/19
THEATER THYK
監督 ティム・バートン
ナンバー 16
出演 ジョニー・デップ/ヘレナ・ボナム=カーター/アラン・リックマン/ティモシー・スポール
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


滴り落ちる血は復讐と恐怖、そして死の象徴。屋根から天井を伝い溝から下水に向かう赤い流れには主人公の怨念が凝縮され、屈辱の記憶が怒りに火をつける。彼の目に映る世界はほとんど色彩がないが、その毒々しいまでの鉄さび色だけは強烈に自己主張する。美しい妻と小さな娘を奪われた男が地獄の底からよみがえり殺人鬼となるが、その狂気の根底には深い愛が横たわっているという悲しみを、ジョニー・デップは朗々と歌い、ティム・バートンは流麗なカメラワークで繊細に描く。


ターピン判事の横恋慕で妻子を奪われた上、罪に陥れられた理髪師が、トッドと名を変えてロンドンに帰ってくる。早速ラベット夫人のパイ屋の2階に店を構え、彼女から妻子の消息を聞いたトッドはターピンへの報復を誓う。


愛した思い出が鮮明な妻と違って、赤ちゃんのときに生き別れた娘・ジョアナに対する想いは妄想のよう。ターピンに捕らわれているジョアナへの思慕を、トッドと彼女に恋をする若い船乗りが交互に歌にのせるシーンでは、トッドはひたすら客の頚動脈にかみそりをあて、船乗りはジョアナを救出しようと動き回る。自然に湧き出る娘への愛と努力して勝ち取る恋人への愛という、尺度の違う愛が暗い雰囲気の世界で高らかに歌い上げられるというミスマッチが恐るべき調和を生んでいる。


結局、ターピンへの憎悪に目がくらむあまり、トッドはホームレスを妻と気付かずそのかみそりの餌食にしてしまう。殺人という名の蜜。トッドの心は噴水のような血しぶきに快感を覚え完全に麻痺している。その後、トッドも少年に喉を切られ、トッドの喉から流れ落ちる血は愛する妻のものと混ざり合う。血で始まったこの物語が最後には愛と後悔と死のメタファーで締めくくられる。同じ「死」をイメージしながら、オープニングの冷たい血と見事な対を成すエンディングの温かい血に、トッドがほんの少し人間の心を取り戻したことをうかがわせ、この物語にかすかな救いをもたらす。


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