ポイント ★★★*
DATE 07/10/12
THEATER スペース汐留
監督 森岡利行
ナンバー 206
出演 武田真治/藤本七海/広末涼子/紺野まひる
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
栄光の時代は短く、残りの人生は長く険しい。それでも娘の前では決して愚痴や泣き言は言わずに胸を張って生きている。カネとツキには恵まれなかったけれど、その人柄で多くの人に愛されたボクシング元五輪銅メダリスト。彼の娘の目から見た豪快なその日暮らしを、ユーモアたっぷりにボケとツッコミのようなテンポで描いている。いつまでも過去にしがみついている意気地なしなのに、不思議と娘の心はつかんでいる。そんな破天荒な男を武田真治が完璧にシェイプアップした肉体で演じている。
メキシコ五輪で銅メダリストになった栄治はプロに転向するが、網膜はく離で引退。その後は妻の稼ぎで暮らしているのに浮気が絶えない。娘の治子はそんな父に反発を覚えながらもよき理解者となっていく。ある日、ヤクザの命を救ったことからジムの会長を任される。
右目を失明し、酒と借金まみれの日々なのに、まったく暗さがない。それは自分の弱みを娘に見られたくないという父親の意地だ。アホでスケベなエロオヤジと思わせておいて、つらい本心は決して見せない。妻が家出し飼い猫が死んだとき初めて見せる涙に、虚勢を張らなければ生きていけない弱い男の本心が透けて見える。それは銅メダルという中途半端な賞賛と、プロで成功するという夢をつかみきれなかった男のボクシングに対する複雑な感情の裏返しなのだ。
負け犬、治子は栄治をそう呼ぶが「人生の勝ち負けは自分で決めるもの」という祖父の言葉にもう一度父と自分の関係を見つめ直す。夢を見せてくれたのはボクシング、夢を奪ったのもボクシング。ならば最後までとことんボクシングと付き合おうと決心した後、栄治は立ち直る。栄治がボクシングを誇りにしていたことを彼の死後に知った治子は、やっとプータロー時代の父の気持を理解する。あれは人生をリセットするためのモラトリアム期間であったということを。打ち込める仕事と思いやりのある家族、ラストシーンはそれがあればどんな人間も人生の勝利者になれることを教えてくれる。