こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マリア・カラス 最後の恋

otello2008-02-01

マリア・カラス 最後の恋 CALLAS ONASSIS


ポイント ★★
DATE 08/1/26
THEATER 109KW
監督 ジョルジョ・カピターニ
ナンバー 21
出演 ルイーザ・ラニエリ/ジェラール・ダルモン/アウグスト・ズッキ/シドニーローム
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


愛に生き、歌に生きる、トスカの歌のような情熱的な生き方をしたからこそ、その歌声だけでなく人生そのものが伝説となり人々に愛されたヒロイン。無一文から這い上がり世界屈指の富豪となった後にも、欲しいものは必ず手に入れなければ気がすまない男。強引なふたりの出会いから蜜のような甘い日々、そして男の心変りと決定的な破局まで、全世界が注目した愛の行方を克明に追う。しかし、事実にフィクションを適当に配合したようなエピソードを時系列に沿って並べただけのヤマ場のない展開には演出上の工夫に乏しく、登場人物に共感したり感情移入する余地がない。


太っていて見栄えのしない歌手だったマリアはメネギーニに才能を見出され売れっ子になっていく。ある日、マリアの出演するオペラを見たオナシスはパーティで彼女に近づき「必ずあなたをものにする」と宣言する。


彼らの物語はイタリア人やカラスファンにとっては誰でも知っていることなのだろう。おのおののエピソードが何年に起き、マリアが何歳だったかという説明は一切ない。オナシスの船上パーティにチャーチルが招待されていたり、ケネディの名が出ることで大まかな時代を推測するしかない。そこには時間の流れという概念が希薄で、マリアとオナシスの不倫がどれくらい続き、どれくらいかかって冷めていったかというのは、ふたりの現役時代をリアルタイムで知らないとほとんど分からない。


モンテカルロ、パリ、ニューヨークといった街のシーンでは当時の雰囲気を再現するだけでなく、フィルム自体のくすみがまるで'60年代の映画を見ているようだ。ところがマリアが有名なオペラアリアを絶唱するシーンは、そこだけ音声をデジタルリマスターしたような迫力の重低音。実際に歌われる人間の声はもっとまろやかで、ホールの反響が滑らかに中和するのに、いかにもスタジオで別録りしたかのような歌声には明らかに違和感を覚えた。


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