こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ファーストフード・ネイション

otello2008-02-15

ファーストフード・ネイション FAST FOOD NATION


ポイント ★★★
DATE 08/1/17
THEATER SG
監督 リチャード・リンクレイター
ナンバー 13
出演 グレッグ・ギニア/パトリシア・アークエット/カタリーナ・サンディノ・モレノ/アシュレイ・ジョンソン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


日々の暮らしに困っているわけではないが、将来に明るい展望もない米国人。米国人の嫌がる仕事でも故郷と比べると破格の給与を手にする密入国のメキシコ人。どちらも経済発展の犠牲になりながらも、飢えや寒さといった切迫した危機とは無縁の飽食の貧困層。ファーストフードの巨大チェーン店を舞台に、原料となる牛肉を生産する牧場から末端のショップまで、その内幕をリアルに描くことでいま米国が抱えている格差社会の現実を突きつける。


ハンバーガーチェーンの部長・ドンは肉のパテに大腸菌が混入しているとの知らせを受け、食肉工場の視察に赴く。そこでは合成飼料で育った牛が低賃金のメキシコ人不法労働者によって処理されている。一方のハンバーガーショップでは米国人高校生が生活のためにアルバイトをしている。


ここに登場する米国人母娘はまさに下流社会の象徴。母は定職につかず食事も冷凍食品、娘のバイト料をあてにするダメ親。しかも自分がだらしない女であることを自覚している。カネはなくてもそれなりに楽しく生きられることが貧乏に甘んじている原因だろう。母を反面教師に娘は勉強に励み大学を目指し、この暮らしから抜け出そうと考えている。米国では、負け組に定住するのも自ら選んだ結果なのだ。また、一見搾取されている食肉工場のメキシコ人たちも、現場監督が女性従業員をつまみ食いする以外は、過酷な労働に対して怒りにまでは煮詰まっていない。豊かな未来という夢があるからこそ耐えられるのだろう。


利潤追求と貧困、大企業と消費者、清潔なオフィスで販売戦略を練る米国人と牛の血や内臓にまみれたと畜場で働くメキシコ人。そういった対立の構図を取らず、映画は淡々とこの産業に従事する人々を活写する。告発や問題提起といった正義感を押し付けるような姿勢がまったくなく、現状を肯定も否定もしない。資本主義をきちんと見つめることこそが大切とこの作品は訴える。


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