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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

地上5センチの恋心

otello2008-03-03

地上5センチの恋心 ODETTE TOULEMONDE


ポイント ★★★
DATE 08/1/9
THEATER 映画美学校
監督 エリック=エマニュエル・シュミット
ナンバー 5
出演 カトリーヌ・フロ/アルベール・デュポンテル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


物質的な豊かさには縁がなくても、笑いや喜びに満ちた人生。それはいつも身の回りに小さな幸せを見つけ、空想を膨らませることで手に入る。心がうきうきすれば体も浮き上がるような感覚になり、いつしか自分が物語の主人公になっている。そんなヒロインが手の届かなかった憧れの人と結ばれそうになったとき、思わず身を固めてしまう。想像の中ではいつも恋を成就させるのに、現実の世界では急に壁を作ってしまう、そんな不器用なオバサンをカトリーヌ・フロはチャーミングに演じている。


デパートの販売員・オデットは女手ひとつで2人の子供を育て上げ、今はバルタザールという作家のロマンス小説のファン。ある日、彼の新刊のサイン会で熱烈なファンレターを手渡す。一方、妻の浮気を目撃したバルタザールは自殺未遂の挙句病院を飛び出し、オデットのアパートに転がり込んでくる。


狭いアパートに子供たちと3人暮らし、内職までして家計を支えているオデットは、夫に先立たれたものの息子と娘という家族に恵まれ、決して裕福ではないが幸福。その反対に、バルタザールは富も名声も手に入れた流行作家で女性関係も派手な上に家庭は崩壊状態。夢を見るだけのオデットと夢を売る商売のはずなのに夢に敗れたバルタザールの姿を通じて、経済的社会的な「負け組」「勝ち組」という色分けは、満足の尺度とはまったく関係のないことを映画は訴える。


そして、オデットとバルタザールは、奇妙な同居生活のなかで意識し始める。愛することに積極的だったオデットは愛されることに不慣れで、今まで本気で人を愛したことのなかったバルタザールは初めて人を愛することの難しさを知る。やがて、オデットのバルタザールを思う気持は、彼のことを考えるだけで心がときめいた「恋」から、彼がいることで心が安らぐ「愛」に変化する。その心境の変化がとてもロマンチックで、ときめきと安らぎこそが人間を幸せにすることを教えてくれる。

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