こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

花影

otello2008-03-11

花影


ポイント ★★*
DATE 08/2/13
THEATER 映画美学校
監督 河合勇人
ナンバー 38
出演 山本未来/キム・レウォン/戸田恵子/石黒賢
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


桜の花びら舞う穏やかな空気が心の鎧を解いていく。それはほんのわずかな時間の出会い、その瞬間に芽生えた感情を一度は忘れていたのに、胸の奥で知らず知らずのうちに大きくなっていく・・・。成功を手に入れたヒロインが、自分に不可能はないとさらに高慢になっていく過程で突然陥穽に落ちたとき、桜の下での出来事を思い出す。映画は、ひとりの女性の精神的な成熟を通じて、世俗的な成功だけでは手に入れることができない、人生に必要なものは何かを問う。ただ、彼女の身に起こる変化が唐突で、もう少し伏線を張るような工夫が欲しかった。


ジュエリーデザイナーの尚美はプサンに先祖の墓参りに行き、そこでスンウという青年と出会う。日本に帰った尚美はカメラマンとの不倫を報道されて店の客足が落ち、経営が立ち行かなくなっていく。


仕事に対してだけでなく、何事も自分の思い通りにしないと気が済まず、誰に対しても高飛車になる尚美はイヤな女。スンウへの名刺の渡し方やスタッフを人間扱いしない態度など、他人を見下しスキや弱みを見せることを極端に嫌う。カメラマンの妻に直談判に行ったあげくフラれ、スキャンダルで店をたたんではじめて人生を見直す時間ができるのだが、他人への思いやりが欠けていた尚美に失って初めて分かるものがあるということ気付かせてくれたのはスンウからの手紙。熱烈な思いを綴った便箋に心打たれる。しかし、なぜスンウが尚美を「桜の精」と思い込むほど一目ぼれしたのかが、バイリンガル少女の意訳だけでは説明不足で説得力に欠ける。


再び訪ねたプサンで起きた小さな奇跡。日本名を捨てサンミと韓国名を名乗るようになった尚美は、そこで民族の血に目覚めていく。日本とは程遠い、人間味のある暮らし。彼女はここがふるさとであることを実感する。特に、夢の中でスンウに抱きしめられ、目覚めると一枚の桜の花びらを手のひらに握り締めていたというシーンはとても幽玄の趣が合って美しかった。これをラストシーンにすればよかったのに、墓参などは蛇足だった。


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