こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ポストマン

otello2008-03-23

ポストマン

ポイント ★★*
DATE 08/1/10
THEATER 映画美学校
監督 今井和久
ナンバー 7
出演 長嶋一茂/北乃きい/原沙知絵/田山涼成
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


手紙を預かり届けるという職務に忠実な一方、亡き妻への想いと年頃の娘との関係に戸惑う男。ゆるぎない信頼と頑固なまでの信念、そして巌のごとく頑丈そうな後姿。長嶋一茂の広く大きく分厚い背中が、言葉でも表情でも決して表現できない、まっすぐに生きてきた主人公の人生を饒舌に物語る。真っ赤に塗られた無骨な自転車で走り続け、書いた人と受け取った人の期待に応えようとする姿は、不器用でも正直に生きることの素晴らしさを教えてくれる。


千葉県外房の小さな漁村の郵便局員・龍兵はいまだ配達は自転車、ケータイもパソコンも持たないアナログ人間だが、その実直な働きぶりで村人から頼られている。ある日、亡き妻の遺品を整理しようとすると、中三の娘・あゆみが反発、進学を機に家を出たいと言い出す。


「手紙は人と人をつなぐ心の架け橋」という郵便局長のセリフに象徴される手紙の重み。便箋に思いをしたため、封をして切手を貼ってポストに入れる。そこにはメールや電話にはない、相手への濃縮された感情がにじみ出る。その大切さを龍兵は知っているからこそ一通の誤配も許さない。態度の悪い後輩を聾唖の娘の元に連れ出し、手紙を受領することの喜びとそれを届ける責任の重大さを教え込むシーンなど、効率や利潤の追求だけが郵便局員の仕事ではないことを描く。


父娘の断絶が続く中、あゆみは龍兵が自分の母に送った大量の手紙を読み、父の気持を知る。しかし、そこから映画は、龍兵が独居老人の手紙を富士山近くのあて先まで自転車で手渡しに行くという奇妙な展開になる。200キロあまりの距離、しかも小田原から箱根を越える無謀な行程でひたすらペダルを漕ぎ続けるのだ。どう考えても電車や自動車のほうが速いし、そもそも投函されていない手紙を私情で配送してもいいものだろうか。もちろん龍兵の強烈な使命感を強調したかったのは理解できるが、ここはファンタジーではなくリアリティを持たせたほうが説得力はあったはずだ。民営化された日本郵政の広報色があまりにも濃く、郵便局員を理想化しすぎているのが少し鼻についた。

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