こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マイ・ブルーベリー・ナイツ

otello2008-03-27

マイ・ブルーベリー・ナイツ MY BLUEBERRY NIGHTS

ポイント ★★
DATE 08/3/22
THEATER THYK
監督 ウォン・カーウァイ
ナンバー 70
出演 ノラ・ジョーンズ/ジュード・ロウ/ナタリー・ポートマン/レイチェル・ワイズ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


しっとりと落ち着いた色使い、アップを多用しながらも人物を中央に置かない微妙な構図、スローテンポのけだるい音楽、メタファーに満ちたセリフ・・・。それらの要素を巧みに紡ぎあわせスタイリッシュで耽美な映像にまとめている。しかし、そこで繰り広げられるのは失恋した女が心の空白を埋めるためのモラトリアムという空疎な内容。別れた男を忘れる逃避行のはずが、いつの間にか旅先からの手紙で別の男に気を持たせるという小狡さに転化している。さらに目的地も期限もない旅のゴールが新しい恋というのは陳腐すぎる。


恋人の浮気を知り傷心のままカフェひとり佇むエリザベスは、店員のジェレミーから売れ残りのブルーベリーパイを勧められる。その後、ふらりと旅に出たエリザベスは妻に未練を残す警官や女ギャンブラーと出会い、自分に足りなかったものに気付いていく。


ジェレミーの店には客が置いていった鍵が広口ビンの中にいくつもたまっている。鍵を捨てるとドアは永遠に開かないというのがジェレミーの言い分なのだが、それぞれの鍵にあるはずの持ち主の物語が語られることはない。もちろん新たに鍵を預けたエリザベスもその鍵にまつわる思い出は語らない。その他にも売れ残ったブルーベリーパイ、ロシア文字で書かれた店名、店のビデオなどの小道具が出てくる割には何の伏線にもなっておらず完全に肩透かし。そもそも最初からまともなストーリーがあるとは思えなかった。


テネシーの警官夫婦のエピソードも、夫が入り浸っている酒場に妻やその新恋人がのこのこ現れるのは不自然だし、女ギャンブラーと彼女の父の話もいかにもうそ臭い。カウンター越しの間柄だったエリザベスとジェレミーがキスを交わすことで恋人への一歩を踏み出すという、アイスクリームを乗せたブルーベリーパイより甘い結末に至ってはアホらしくて付き合いきれなかった。典型的な「予告編はよくできた映画」だった。


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