こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

タクシデルミア

otello2008-03-31

タクシデルミア TAXIDERMIA


ポイント ★★★
DATE 07/11/15
THEATER 映画美学校
監督 パールフィ・ジョルジ
ナンバー 232
出演 チャバ・ツェネ/ゲルゲイ・トローチャーニ/マルク・ビシュショフ/アデール・シュタンツェル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


性、食、睡眠。根源的な欲望に対して忠実に生きたというより、その本能を極めることが人生の目標であるかのように他のすべてを犠牲にしているような潔さ。3代の血脈は、それぞれが悲惨な最期を迎えるのだが、本人たちは満足だったに違いない。映画は性器・内臓・嘔吐といった隠された存在を表層に持ってくることによって、人間が生活するうえでそれらを避けて通れない要素として描く。非常に不条理でシュールな表現主義が頻出するが、そこから描き出される人間の真実から目を逸らすことはできない。


当番兵として中尉の家族の世話をするヴェンデルは中尉の妻や娘を見ながら空想にふける。ヴェンデルの息子・カールマーンは大食い競技のハンガリー代表として世界一を目指す。カールマーンの息子ラヨスは自分で自分の体を剥製に加工する。


ヴェンデルはひたすら射精よる快感を求める。妄想の中では想いのままに楽しみにふけることが出来るが、実際に体験した、中尉の、豚のように太った妻とのセックスは余り満足そうではない。むしろ解体された豚に挿入しているような違和感を覚えているようだ。求道者のように自慰に励み、一度だけのリアルな女性とのセックス。生殖のためより、自分の恍惚感のためにだけに性器を使うことの贅沢をヴェンデルは堪能しているようだ。


腕のいい剥製師となったラヨシュが求める睡眠とは、自らを剥製とすることで肉体から意識を奪った状態を作ること。鏡を見ながら自分の内臓を取り出し、縫合し、最後に頭を刎ねることで仕事を完成させる。そして首のない剥製はアートとして人目にさらされるのだ。目覚めることはないが夢を見ることもなく、肉体が朽ち果てることはない。それは死を意味するのではなく、彼が求めた永遠の安らかな眠り。自らの強烈な願いを叶えたという事実、それが公開された瞬間にラヨシュの人生における勝利が確定する。性は誕生、食は成長、睡眠は死を意味するように、3世代かかってやっと人間らしい人生を送ることができた彼らのDNAがこの映画の本当の主役だった。


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