こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

つぐない

otello2008-04-12

つぐない ATONEMENT


ポイント ★★★★
DATE 08/1/24
THEATER 東宝東和
監督 ジョー・ライト
ナンバー 20
出演 キーラ・ナイトレイ/ジェームズ・マカヴォイ/シアーシャ・ローナン/ヴァネッサ・レッドグレイブ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


好きな男に振り向いてもらえない苛立ちが、タイプライターの音と重なって少女の心をよぎる。ライバルは姉、しかも男と姉は少女の価値観からは外れた不適切な関係。まだ恋も知らないような思春期の少女の純粋な「愛」への憧れと「性」に対する潔癖さが、男と姉の愛を破綻させてしまう。理想とは程遠い現実に対し、彼女は小説という嘘のなかに完璧な世界を構築しようとするが、過去に後戻りはできない。映画は失われた時間を呼び戻すことで、人生の美しさともろさを描く。


'35年、英国上流階級の姉妹・セシーリアとブライオニーはともに家政婦の息子・ロビーに想いを寄せていた。ある日セシーリアとロビーの間を知ったブライオニーは、ロビーがいとこをレイプしようとした犯人だと偽証する。


ロビーは兵役につくことで懲役を免れるのだが、フランス戦線で敗走する英軍が集結した海岸シーンのスケールが目を見張る。カメラはロビーの視線となって、疲れ果てた将兵、打ち捨てられた軍用車や帆船、処刑される軍馬などすべてワンカットでフィルムに収める。その壮観は絶望と苦痛に満ち溢れ、ロビーの置かれた立場と心を象徴する。やがて帰国したロビーは小さなアパートでセシーリアと暮らし始めるのだが、そこにブライオニーが謝罪に訪れる。


生涯をかけてつむぎだした緻密で壮大な虚構。やがて小説家として成功したブライオニーは、セシーリアとロビーについての真実を打ち明ける。それは、彼女が壊してしまったふたつの人生を、せめて小説の中だけでもハッピーエンドを迎えさせてあげたいと思いつつ、自分自身の贖罪もその物語の中で済ませてしまうという身勝手な気休め。死んでしまった者にはもうどんな言葉や思いも届かないことはブライオニー本人がいちばんよく分かっているはず。嘘で始まった悲劇の結末を嘘で固める才能を得たブライオニーは、後悔と苦悩に満ちた記憶を呼び起こし、身と心を削るようにしてタイプを打つことでしかつぐないはできないのだ。人間の感情の奥深さが非常に繊細に再現され、最後まで緊張感の途切れない圧倒的なドラマだった。


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