こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

チェスト!

otello2008-04-23

チェスト!


ポイント ★★
DATE 08/4/19
THEATER チネチッタ
監督 雑賀俊郎
ナンバー 96
出演 高橋賢人/御厨響一/中嶋和也 /松下奈緒
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


友情、いじめ、親子関係、誰にもいえない秘密・・・。小学6年生ともなれば学校や家庭での「立ち位置」を理解し、社会との折り合いをつけていく術を心得ている。それでも大人になりきっていない心が時々顔をのぞかせ、抑えていた感情が爆発する。カメラはそんな微妙な年頃の少年少女の複雑な心境を丁寧に掬い取り、「勇気をもつこと、あきらめないこと、励ましあうこと、そして感謝すること」という鹿児島のよき伝統を伝えようとする。ただ、とってつけたようなエピソードやコミカルなが散発し、せっかくの“泣かせる話”を中途半端な作品にしてしまった。


遠泳大会の季節が迫ってくるが、隼人は泳げないことを隠している。そこに東京から智明が転校してくるが泳ぎがうまいと知ると、過敏性大腸炎のノロマツとともに隼人は智明に水泳を教えてもらうことにする。しかし、なかなか打ち解けない智明には父の自殺というトラウマがあった。


4キロを泳ぎきることで隼人は嘘つきを克服し、ノロマツは自信をつけ、智明は周囲に張り巡らせていた壁を取り払う。共通の目標に向かって支えあい、努力するうちに深まっていく仲間への信頼と親との絆。自分は一人じゃないということに子供たちは気付いていく。その過程は定石どおりの手堅さなのだが、表現が非常にちぐはぐで違和感が終始伴う。たとえば暴走する自転車を隼人が顔で止めたり水泳の練習をサボって双眼鏡で観察したり、不自然なほどテンションの高い隼人の父がギター片手にわめき散らしたかと思うとなぜか智明の家庭の事情をすべて知っていたりする。


そういった一見無意味なシーンも、この映画がターゲットとする小学生向けに登場人物や設定の背景を説明するという役割を持っているのだろう。ノロマツのお漏らしという尾籠なシーンも、小学生にとっては智明が抱える社会への不信感よりもずっとリアルな話題なのかもしれない。ならば映画の視点を小学生からのものに限定し、松下奈緒扮する先生など何のために出てきたのか分からない人物はカットすれば、もう少し引き締まった印象になったはずだ。


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