こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

otello2008-04-30

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド THERE WILL BE BLOOD


ポイント ★★★
DATE 08/4/26
THEATER THYK
監督 ポール・トーマス・アンダーソン
ナンバー 101
出演 ダニエル・デイ=ルイス/ポール・ダノ/ケヴィン・J・オコナー/キアラン・ハインズ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


静謐な映像から一転して神経をかきむしるような高音を弦楽器が奏でる、それは主人公の満たされぬ強欲の象徴だ。小さな成功では飽き足らず、さらに大きな結果を望む。その見返りに得たものは究極の孤独。目的のためなら家族でさえ犠牲にし、価値がなくなったらあっさりと切り捨てるこの男の前では、神すら利用できる要素のひとつに過ぎない。映画は石油に取り付かれた男の前半生を通じて、欲望こそが人間をつき動かす重要な動機であることを描く。


20世紀初頭、油田を求めて西部をさまようダニエルは大手が手をつけていない土地を発見、買収する。そこではカルト的な祭司・イーライが影響力を持ち、ダニエルは教会への寄付を約束するが、油田が発見されたとたん反故にする。


ダニエルにとって家族とは何だったのか。乳飲み子から育てた息子・HWをとても愛しているが、自分が掘り当てた油田が火事になるとHWより油田のほうが気になる。一方で耳が聞こえなくなったHWをずっと抱きしめてやるかと思えば、彼の気持ちを理解しようともせず他人に預けてしまう。さらにそのことを他人に指摘されると過剰反応する。ラスト近くでHWを絶縁するときに、元々血縁はなかったと言い放つが、女っ気がまったくなかったダニエルは、実は同性愛者だったということか。確かに子連れなら同性愛を疑われずにすむ。


だからこそ弟を騙ったヘンリーと共に海水浴のあと浮かない顔になり、彼の正体に気付く。水着での戯れはふたりの性行為のメタファー、それを受け入れたヘンリーはすなわち偽者。また、ダニエルの敵のように描写されるイーライも同好者で、ふたりの心の中では愛と憎悪が複雑に絡み合い、分かちがたい関係になっていたのだ。伝道の旅から十数年ぶりに戻ったイーライがダニエルの前に姿を見せたとき、長い不在の穴埋めをするかのようにダニエルの怒りが爆発する。「オレは終わりだ」と叫ぶダニエルにとって、本当に愛したのはイーライだけだったのではないだろうか。


↓その他の上映中作品はこちらから↓