こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

光州5・18

otello2008-05-09

光州5・18


ポイント ★★*
DATE 08/3/26
THEATER 角川
監督 キム・ジフン
ナンバー 74
出演 キム・サンギョン/イ・ヨウォン/イ・ジュンギ/アン・ソンギ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


デモ隊の一般市民に向かって一斉に発砲する正規軍。市民はなす術もなく銃弾に倒れ、街は血に染まる。チョン・ドファン政権に対して民主化を要求した学生運動に端を発した光州事件は、武器を奪った市民軍との内戦状態になる。恋に苦しみ、勉強に励み、小さな諍いはあっても笑いが絶えないのどかな日常が一日にして軍靴に踏み潰されるという恐怖。文民統制が行き届いていない時代の韓国の実情がリアルだ。しかし、異常にテンションの高いタクシー運転手とロン毛男が映画を安っぽいものに押し下げてしまった。


タクシー運転手のミヌは秀才の弟ジヌの親代わりとして仕事に励む日々。シネという看護婦に憧れているがなかなか気持を伝えられない。そんな時、学生運動を弾圧する軍隊を目の当たりにし怒りを覚える。そしてジヌが銃撃されたことからミヌは市民軍に参加する。


前半はミヌ・ジヌ兄弟を中心に街の人々の暮らしを追っているのだが、コミカルな演出でどこか昔の和製ホームドラマを見ているよう。大げさな感情表現とコントのような掛け合いの中に兄弟の縁や友人・知人のつながりを大切にする韓国人の情の濃さ、人の良さを丁寧に拾う。一方、後半は戦争映画さながらの市街戦。このトーンの変調で平和時と戦乱時の落差を強調しようとしているのは理解できるのだが、うまく融合せず少し違和感が残る。


やがて市民軍は予備役大佐の下で組織され、武器庫を襲った上に道庁舎を占拠し篭城する。元海兵隊員のミヌも加わり、突入してきた精鋭部隊との間で壮絶な銃撃戦が始まるが徐々に追い詰められていく。そこでまたミヌとシネの間に芽生えた愛を巡ってひと悶着あるのだが、最初からミヌとシネを物語の中心にすえて、この動乱で悲しみに散っていった彼らの運命に集約していれば引き締まった映画になり、ふたりの結婚式というラストシーンも生きてきたはずだ。ただ、デモ隊・正規軍に関わらず国家が流れると皆いっせいに姿勢を正すシーンには、韓国人の国家に対する忠誠が感じられた。



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