こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミスト

otello2008-05-14

ミスト THE MIST


ポイント ★★★*
DATE 08/5/10
THEATER WMKH
監督 フランク・ダラボン
ナンバー 110
出演 トーマス・ジェーン/マーシャ・ゲイ・ハーデン/ローリー・ホールデン/アンドレ・ブラウアー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


外部から孤立した集団が正体不明の怪物に包囲され逃げ場を失ったとき、そこにいる人々はどういう行動をとるか。力を合わせて闘おうとする者、状況を把握せずに蛮勇を奮う者、狂気を扇動し主導権を握ろうとする者、そしてただ多数派に流されるだけの者。情報がなく極限状態に置かれ、真綿で首を絞めるかのような恐怖に次々と襲撃されて死人の数が増えていくうちに、理性よりも感情が彼らを支配していく様子が細密に描かれる。そして、何が異常で何が正常なのか、その判断基準が曖昧になっていく過程ですべての登場人物がエゴをむき出しにしていく。


大嵐の翌日、街のスーパーに買出しに出かけたデヴィッドと息子のビリーは、謎の生物が潜む霧に覆われてしまい、他の客と共に店内に閉じ込められる。その後棘つき触手、巨大昆虫、肉食怪鳥などが店内に侵入してくる。


目に見える現実よりも根拠のない楽観を頼ったり、希望が残っているうちは縋ろうとするが、それが絶望に替わってしまうと神を頼りにしてしまうという心の弱さ。エイリアンが襲ってこない時間が長くなるにつれ悲観は誇大妄想に成長し、カーモディという狂信者の言葉に最初は誰も耳を貸さなかったのに2日後には生き残ったほとんどの人が信者になる。どんな状況になっても終始一貫して自分の主張を曲げない彼女のような人物こそが最後には他人から信頼を得るのだろう。理解を超えた出来事に思考回路がショートしたときに、何かを信じていたいと思う心理が非常にリアルだ。カーモディと彼女の同調者の姿に、大衆に支持されたファシズムの原点を見るようだ。


やがてデヴィッドは数人の仲間と共にスーパーからの脱出を決行する。いつ果てるともない霧、ガソリンが切れもはや動けなくなったとき、デヴィッドは断腸の思いで自決を断行するが、その直後に救済が訪れる。結局、カーモディに従い神に祈っていた人々はおそらく助かったという皮肉。グロテスクな異次元生物をたくさん登場させなくても、人間の精神状態だけで十分にホラーとして成り立つ作品だった。


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