こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー

otello2008-05-16

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー CHARLIE WILSON'S WAR


ポイント ★★★*
DATE 08/2/19
THEATER YUH
監督 マイク・ニコルズ
ナンバー 43
出演 トム・ハンクス/ジュリア・ロバーツ/フィリップ・シーモア・ホフマン/エイミー・アダムス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


シューティングゲームを楽しむかのようにアフガン人を撃ち殺すソ連軍のヘリ。かつて共産主義という米国にとっての「絶対悪」が存在した時代。その象徴であるソ連に敵対する勢力であれば、「敵の敵は味方」という単純な理論で宗教・信条を問わず援助する考え方が米国内でも蔓延し、そこに米国の影をいかに隠すかに焦点が絞られる。映画はアフガンゲリラにソ連製の武器を供与するために中東を奔走した下院議員とCIA職員の活躍を通じて、彼らの多大な功績が現在のブッシュ政権の首を絞めている現状をスマートに皮肉っている。


1980年、テキサス州選出の下院議員・チャーリーは、テキサスの富豪・ジョアンに頼まれてアフガン問題に首を突っ込む。パキスタン訪問でソ連軍によるアフガン侵攻の実態を知ったチャーリーは、CIAの専門家・ガストをブレーンにアフガンゲリラ支援のために積極的に動き回る。


現場の声を聞き、有力者に働きかけ、予算を獲得する。しかもすべて極秘に事を運ばなければならない。そんなプレッシャーの中で、水を得た魚のようなチャーリー。ソ連軍を国境の向こうに追いやっても、決してその手柄が国民に知られることはない。それでも純粋に自分の良心に従って行動する理想的な政治家の姿を延々と語ることで、見る者にいまさら何を語ろうとするのだろうかという疑問を持たせる。


プロローグそしてエピローグ、アフガン撤退完了後、チャーリーを称えた関係者だけの表彰式が行われる。拍手と栄光に包まれ、更なる明るい未来を約束されているよう。しかし、ラストシーンでチャーリーの晴れがましい笑顔を暗転させ、これまで描いてきたチャーリー=米国の正義がいかに独りよがりのものだったかを告発し、「アメリカの良心」がポスト冷戦、さらには21世紀における紛争の種になっていることに気付かせる。この一点だけで、ノーテンキなアメリカ愛国者物語を未来の負の遺産に転化させる、鮮やかな演出だった。


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