こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マンデラの名もなき看守

otello2008-05-22

マンデラの名もなき看守 GOODBYE BAFANA

ポイント ★★★
DATE 08/5/17
THEATER 109KW
監督 ビレ・アウグスト
ナンバー 118
出演 ジョセフ・ファインズ/デニス・ヘイスバート/ダイアン・クルーガー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


監視を続けるうちに、次第に理解しやがては尊敬すら抱いていく。相手は下等な人間とされてきた黒人のリーダー。彼は決して恐るべきテロリストなどではなく、知性あふれる穏やかな人物。27年間も獄中にありながら不屈の精神でアパルトヘイトに反対し、ついに南アフリカに人種的平等をもたらしたマンデラを見守り続けてきた男の姿を通じて、体制側の歯車に過ぎない人間の弱さと苦悩を描く。根拠なき差別と感じた小さな違和感が、時と共に確信になっていくという、当時の白人がたどった理性の変遷がよく描かれている。


黒人の言葉を話すという理由でマンデラの看守になったジェームズは、街で見かけた黒人狩りや自由憲章を読むことでマンデラの思想に共鳴していく。しかし、看守という職責と妻の無理解から、なかなか口には出せない。


マンデラを「憎まない」というだけで仲間からは白い目で見られ、マンデラから「信頼された」というだけで危険視される。ジェームズの妻・グロリアが、あらゆる黒人は手を出すと噛み付く獣のように思っていることに代表されるように、白人の有色人種に対して植えつけられた誤認識は非常に強い。ジェームズは幼少時に黒人少年と遊んだ記憶から黒人への偏見は少ない。相手を受け入れようとしようとしない姿勢こそが対立を生むのだ。


ジェームズはマンデラの解放や反政府運動に積極的に関わるわけではなく、あくまで好意的傍観者の立場をとり続ける。その態度から昇進を棒に振るが、政府側もマンデラとの仲介役としてジェームズを利用しはじめる。時代はくだり、国内外の世論は完全に反アパルトヘイト。ジェームズに時代の流れを読むほどの才覚があったとは思えないが、ただ愚直に自由憲章に書かれた理想を信じていたことだけは、マンデラが釈放されたあとに手垢が付いた紙切れを読み返すシーンで表現される。マンデラのように強くも賢くもない。不器用で無力でも最後まで自分の信念を捨てなかったジェームズの姿に、市井の人々の中にも世の中を変える潜在力はあることをこの作品は訴えている。



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