こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

世界で一番美しい夜

otello2008-05-27

世界で一番美しい夜


ポイント ★★★*
DATE 08/4/15
THEATER KT
監督 天願大介
ナンバー 92
出演 田口トモロヲ/月船さらら/佐野史郎/石橋凌
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


豊かな物質文明は人間を必ずしも幸せにするわけではなく、欲望を刺激して新たな諍いの原因を作る。その規模がさらに大きくなると戦争に発展する。ならば正義のための殺しあうより、不正義でもセックスしているほうがいい。暴力による革命よりもセックスこそが問題を解決する、そんな理想主義を実現した小さな村が紡ぎだす物語は寓意に満ち溢れ、登場人物も個性に富み、先が読めない展開は2時間40分という長尺を飽きさせない。ポップアートを動画にしたようなアニメーションも斬新で巧妙なアクセントとなっている。


寒村の支局に左遷された水野はスナックのママ・輝子の保険金殺人疑惑を調べるうちに、彼女が特異体質で特殊な霊能力を持つことを知る。一方で、川船に住む二瓶という男の研究する縄文人の活力源にも興味をもつ。やがて、村民の中で輝子と二瓶を危険視する動きが高まってくる。


セックス中毒だった輝子は貞操帯で性器を封印したことで霊能力が身についているのだが、この能力が悩める村人の胸にたまった澱を取り除いている。しかし彼女もまた、自分の性欲のせいで婚約者や前夫を死なせたことがトラウマになっている。二瓶は自ら開発した縄文パワーという精力剤で増強し、輝子と性交に励むことで彼女の心を開き、自身の夢も実現させる。薬の効能を試すために勃起した性器に鉄瓶をつるしたり、板を打ちつけて割るシーンなど、ギャグマンガのセンスをそのまま取り入れ、バカバカしくて笑える。


映画はまた、世間の価値観や先入観などいかにあてにならないかと問いかける。村の有力者はエゴの塊だったり、親友と思っていた男に裏切られたり、白痴の〆子は実は天才だったりと、水野は自分が物事の表層しか見ていない愚か者だということに気付く。唯一、信じられたのは〆子とのセックスの記憶。彼の娘であるミドリが父と二瓶の意思を継ぐラストシーンには、セックスしていれば競争に費やすエネルギーなど残らず争いもなくなるという、平和への願いが強烈に伝わってくる。


↓その他の上映中作品はこちらから↓