こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

1000の言葉よりも-報道写真家ジブ・コーレン-

otello2008-06-20

1000の言葉よりも-報道写真家ジブ・コーレン-
MORE THAN 1000 WORDS


ポイント ★★*
DATE 08/4/9
THEATER 映画美学校
監督 ソロ・アビタル
ナンバー 86
出演 ジブ・コーレン/ガリート・グッドマン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「報道写真家は職業ではなく、人生そのもの」。写真を学ぶ若者に向かって断言するジブ・コーレン。常にカメラを携帯し、事件が起きれば家族との憩いのひと時であってもスクーターで駆けつける。一番乗りを目指し、スクープを撮るためには他のあらゆるものを犠牲にしなければならない。決定的な瞬間にシャッターを押すチャンスは運の要素が強く、だからこそより長く現場にとどまることで、その機会を逃さないように努力する。また、あまり表に出ない被写体にはとことん喰らい付き、相手の信頼を得るまで通いつめる。いま世の中で何が起きているか、その真実を伝えるために命を賭ける男の熱い息吹が伝わってくる。


イスラエルのフォトジャーナリスト・ジブは自爆テロで破壊されたバスの写真で一躍有名になる。イスラエル側だけでなく、パレスチナ側にも深く食い込み、銃弾飛交う戦場やテロリストのリーダーとの会見をフィルムに収め、パレスチナ紛争の現実を世界に向けて発信していく。


ひしゃげた車体、焼け落ちた屋根、無残に引きちぎれた手足の横で血を流しながら救急車を待つ負傷者。まるで火に焼かれた死体の焦げるにおいが漂ってくるような臨場感だ。ジブが撮った写真はテロの生々しさだけでなく、自爆したテロリストの人生までも掬い取っているような気迫がこもっている。しかし、その凄惨な光景にレンズを向けるためには自分の感受性を封印するという冷徹さももたなければならない。目の前に救助を待っている人がいても、助けるのではなくシャッターを押すというジレンマ。カメラマンに徹することを求められている彼の報道への使命感だ。


仕事を離れたジブはモデルの妻と一人娘を愛する普通の男のように見えるが、やはり夫や父親としての役割よりも仕事を優先させてしまう。映画はそんな私生活面にもスポットを当て、家庭的にはあまり恵まれないという現実にも迫る。後半、ジブは来日するが、飛行機ではエコノミークラス、移動も電車と、まったく普通の人と変わらない経済感覚なのが好感を持てた。


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