こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

純喫茶磯辺

otello2008-07-07

純喫茶磯辺


ポイント ★★★*
DATE 08/3/25
THEATER KT
監督 吉田恵輔
ナンバー 73
出演 宮迫博之/仲里依紗/麻生久美子/濱田マリ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


父と娘、ふたりの時は仲良く話すのに、別の人間が入り込んで3人になるととたんに気まずい空気に変化してしまう。それは父が知らない娘の恋だったり、娘が知らない父の世界を見せられるから。ふたりきりで暮らしてきた不可分の間柄に他人が入り込むことの違和感が、非常にリアルに張り詰めた雰囲気をかもし出す。映画は今まで知らなかった、「働く父親」の姿を目の当たりにした娘が大人の事情を知り人生を学んでいく過程を通じ、理想的な父娘関係をコミカルなタッチで描く。


親の遺産で喫茶店を始めた裕次郎はアルバイトにモッコという美女を雇う。娘の咲子は店を手伝っているが、裕次郎がモッコにべったりなのが気に入らない。しかし、モッコのコスプレのおかげで店は繁盛し始める。


かっこいいマスターになれば女にモテるという思い込みが喫茶店を開いた理由。裕次郎は早速モッコに秋波を送り続け、モッコもまんざらでもない。間近で見ている咲子はモッコの性格を見抜いていて、父親が手玉に取られていることに気付いている。一方の咲子は店の常連になった小説家に好意を抱くが、裕次郎は逆にその男の胡散臭さに見抜く。このあたり、映画は同性にしか分らないいやらしさをお互いに父の相手・娘の相手に敏感に感じるが、それを忠告すると逆効果になるという恋の法則に忠実で、人情の機微が細やかに再現されている。


特に、モッコにプロポーズしようと指輪まで用意した裕次郎が咲子と共にモッコから衝撃の告白を聞くシーンの「間」は、沈黙の中でそこにいた3人全員の思いを饒舌に語らせるという秀逸な演出。他にもセリフのテンポを微妙にずらしたり、ダサさが受けたりと、見るものの深層心理をくすぐる仕掛けがとても効果的に使われていた。結局、裕次郎も咲子も恋に破れたあげく店もつぶれ、またふたりだけの生活に戻っていくが、彼らの後姿には元の鞘に納まった夫婦のような安心感が漂っていた。


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