こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

敵こそ、我が友

otello2008-07-26

敵こそ、我が友 MON MEILLEUR ENNEMI


ポイント ★★★*
DATE 08/5/28
THEATER KT
監督 ケビン・マクドナルド
ナンバー 128
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ハリウッド映画に描かれるような、ナチス対連合国という単純ではない第二次世界大戦の構図。特にフランスのように一度ドイツに降伏した後に戦勝国になった場合、そのシチュエーションは二元論では語ることはできない。さらに終戦後のドイツの混沌の中、反共のためには元ナチスとも手を組む米国・バチカンの節操のなさ。それは戦場で殺し合いをするだけではない裏切りと欺瞞に満ちた正史の裏側、膨大なアーカイブから集めた資料映像と生存者へのインタビューで再現されたひとりの戦犯の生涯を通じて、戦争の真実に迫る。


ゲシュタポ指揮官として「リヨンのと殺人」と恐れられたクラウス・バルビー。ベルリン陥落後は米陸軍の依頼で対ソ諜報員として活躍した後、ボリビアに逃走して、実業家としての地歩を固めつつ第四帝国の復活を夢見る。


国家や大儀のためには命を惜しまぬ者もいれば、生き残るためにはなんでもする者もいる。バルビーはそんな人の心の強さと弱さを熟知し利用する一方、大量のユダヤ人を収容所に送りレジスタンスを拷問・処刑する。ここであぶりだされるのは、ドイツ占領下のフランス人の複雑さだ。純粋に自由フランスを取り戻そうとする者、ドイツに積極的に協力してユダヤ人を密告する者、破壊活動に加担する共産党工作員などさまざまな思惑が交錯する。バルビーは結束を欠いたレジスタンスの弱みに付け込み、リヨンを支配する。戦後、米国との取引の末、ボリビアで別の身分を得たバルビーはそこでも独裁政権に取り入り、成功を収める。


その後、ナチハンターに逮捕され、裁判でバルビーは終身刑を言い渡される。彼に傷つけられたり家族を殺された人びとの痛ましい慟哭の陰で、バルビーによって明らかにされたレジスタンス運動の核心に耳をふさぎたくなったフランス人もいたはず。それでも人間の美しい面と醜い面をすべて明らかにすることで、後世の人びとは歴史から学ぶのだ。善良な人は戦争や弾圧を繰り返してはならないと自戒し、権力者は彼を模倣してより洗練された手法を編み出すという目的で。。。


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