こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

きみの友だち

otello2008-07-29

きみの友だち


ポイント ★★★*
DATE 08/4/4
THEATER 映画美学校
監督 廣木隆一
ナンバー 81
出演 石橋杏奈/北浦愛/森田直幸/柄本時生
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


たくさんの友達を持つより、一人の友達とたくさんの時間を過ごしたい。杖なしでは歩けない体になってしまった少女には、同じ速さで歩いてくれる病気がちのクラスメイトが唯一の友人。彼女とその弟の成長を通じて、友達とは、友情とは何かを問う。特に強烈な共通体験がなくてもよい、逆に、肉体的なハンディを背負うがゆえに劇的ことが何も起こらず、お互いに温かく見守っていける。映画は一見人を寄せ付けないような少女の優しい一面が、周囲に及ぼす思いやりの輪をしっとりとした色調で描いている。


交通事故で足に障害が残る恵美と病弱な由香は小学校からの親友同士だが、由香の病状は進行していく。恵美の弟・ブンはスポーツ万能の秀才で学校のヒーローだが、幼なじみや先輩から歪んだ感情を持たれてしまう。


ひとつひとつのカットが非常に長まわしで会話のテンポが遅く、前半は時に間延びした感すらある。しかし、その「間」は登場人物の言動が見るものの心に染み渡る時間を綿密に計算されているかのように、十分に印象付けてから次の場面へと移る。人間だけでなく空の表情も丹念に拾い集め、集団の中では決して主人公になることはない「その他大勢」の子供たちにスポットを当てることで、少なくとも自分の人生の中だけでは主人公になれることを教えてくれる。


秀逸なのは「佐藤」のエピソードだ。好きな女子には相手にされず、サッカー部では後輩の控えという冴えない存在で、ただ上級生というだけで威張り散らした挙句、ブンにケガまでさせる。ひねくれた性格がいやでたまらないのに自分を変えられず、鬱憤ばかりがたまっていく。恵美がそんな佐藤の胸中を見抜き、ビデオに映っていた彼の姿を話すことで、本当は佐藤も素直なよいところもあると諭した上、バレンタインチョコまで手渡す。常に弱者の立場で弱者の気持ちが分かる恵美だからこそ、佐藤を救えるのだ。うだつのあがらない人生でもきっといつかいいことがあると思わせてくれる、そんなホッとするシーンだった。


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