こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

赤い風船・白い馬

otello2008-08-05

赤い風船・白い馬

ポイント ★★*
DATE 08/4/17
THEATER 映画美学校
監督 アルベール・ラモリス
ナンバー 94
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


白い馬


後ろ足だけで立ち激しく体をぶつけ合う2頭の白馬。群れのリーダーの座を巡る熾烈な争いは、力が支配する野生の掟だ。勝ったオスだけが子孫を残すことを許される。一方で、人間たちは馬の群れを囲いに追い込もうとする。そんな中、かつて雌馬や子馬のために体を張って闘った1頭の白馬を主人公に、誇り高く生きるとはどういうことかを描く。それは誰も寄せ付けない孤高。飼いならされるよりは、命の危険を冒してでも自由を求める魂だけが到達することができる境地であることを、モノクロのフィルムに焼き付ける。


この白馬は、たったひとりの少年だけを受け入れ、自らの背中を許す。鞍も鐙もなくただ手綱だけで結ばれた白馬と少年の信頼と友情。全力で走る白馬の安定した姿勢のおかげで、少年は安心して馬の背にまたがっていることができる。やがて彼らを追ってくる馬飼いたちから逃れるために、白馬は少年を背にしたまま海に飛び込む。彼らは人間と馬が仲良く暮らせる土地に行ったということなのだが、他人と違う価値観を持ち、表現しようとするものは狭いコミュニティからは追い出されるということか。。。



赤い風船


少し色あせた映像に風船の赤い色だけが鮮やかだ。まるで自分の意思を持つかのように、パスカルという少年のそばを離れず、時に言うことを聞かなかったりもする。おそらくパスカルはまだ7歳くらい、大人の命令には逆らえないが好き勝手に行動したいという思いも強い。人間の視点から少し高いところから見る街の風景、それは普段の子供の目線とはまったく違う印象に違いない。まだ一人で生きていくことはできないが、多少の自己主張はしてみたい年頃。風船はそんなパスカルの心の象徴として輝きを放っている。


しかし、近所の悪ガキに風船は奪われる。パスカルは風船を救おうとするが、壊されてしまう。個人主義全体主義に対する敗北。そのとき、街中の風船がパスカルの元に集まり、パスカルを空高く運んでゆく。それは寓意に満ち溢れた、抑圧からの亡命だ。ただ、50年前のフランスをよく知らない日本人には、そのメタファーのもつ具体的な政治的思想的意味がよく分らなかった。


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