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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラストゲーム 最後の早慶戦

otello2008-08-26

ラストゲーム 最後の早慶戦


ポイント ★★*
DATE 08/7/22
THEATER 九段会館
監督 神山征二郎
ナンバー 177
出演 渡辺大/柄本佑/柄本明/藤田まこと
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


早大応援席から湧き上がる「若き血」、それに応える慶大応援席の「都の西北」。今度はいつ野球ができるかわからないという切ない思いが、相手チームの健闘を称え、残された時間をいとおしむ。ボールを追っているときだけは戦争のことが忘れられる、このゲームが永遠に終わらなければいい、そんな野球に青春を捧げた青年たちの胸のうちが熱いうねりとなって球場にほとばしる。ただ、最後の早慶戦をしたいという熱意は柄本明扮する野球部長のほうが入営する学生たちよりも強く、部員たちの野球への情熱がイマイチ伝わって来なかった。


昭和18年、戦局の悪化に伴い大学生の徴兵猶予が廃止、早慶の野球部員たちにも召集がかかり始めるが、早大の戸田、黒川といった部員たちは合宿所に残って練習に励んでいる。そんな時、慶大塾長は早大野球部長の飛田に早慶戦を持ちかけるが、早大総長は強硬に反対する。


太平洋戦争は後退局面にあるとはいえ、まだ決定的に敗色が濃くなっているわけではない。それでも野球部が練習している同じグランドで軍事教練が行われていたり、戸田の兄が戦死したりと、死の影が日常のすぐそばにまで伸びてきている。にもかかわらず、選手から野球をやりたい、試合をしたいという切迫した渇望感が少ない。それは、戦場に行っても、野球という「生きてホームに帰ってくる」スポーツをしている自分たちが死ぬはずはないという妄信なのだろうか。


結局、飛田は総長の許可を得ず早慶戦を開催、大勢の学生やファンが見守る中でプレイボールが告げられる。しかし、慶応は準備不足で早稲田が終盤までに大量リード、そんな中でも飛田はベストメンバーにこだわって控え選手との交代を認めない。「学生たちに生きた証を残してやりたい」といっていた飛田だが、ベンチ入りしても出場機会のなかった選手の心中はいかばかりか。早慶戦の成功を素直に喜べず、かえって悔やしさをくすぶらせたままバットを小銃に持ち替えたはず。そのあたりの、記録に残っていないような微妙な心理まできめ細やかに描いて欲しかった。


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