こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

落語娘

otello2008-08-29

落語娘


ポイント ★★*
DATE 08/8/23
THEATER 109KW
監督 中原俊
ナンバー 204
出演 ミムラ/津川雅彦/益岡徹/伊藤かずえ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


セクハラ、中傷、イジメ、無視・・・。まだまだ前時代的な風習が根強く残る男の世界に飛び込んだ若い女に浴びせられる露骨ないやがらせ。それでも笑顔で受け流し自分の話術を磨くことに精進する。人を笑わせるために悔し涙を心の中に封印したヒロインの凛とした姿勢のよさと、登場人物になりきってめまぐるしく変える表情に思わず引き込まれてしまう。彼女が公園で子供たちを前に顔をくしゃくしゃにして「寿限無」語るシーンには、落語の奥深さと前座噺家の悲哀がこもっていて圧巻だった。


12歳で落語に魅せられ、大学落研のスターだった香須美は、落語界のはみ出し者・三々亭平佐の弟子になる。平佐はほとんど稽古をつけてくれず香須美をこき使い、寄席でも先輩芸人の世話ばかり。あるとき平佐が禁断の落語・「緋扇長屋」で復活を果たす計画を知る。


落語界再生計画のもとに平佐を追放しようという勢力に、「緋扇長屋」をやめるように説得せよと香須美は脅されるが、平佐の落語こそ己が目指す芸と悟った香須美は平佐の独演会に向かう。その時に切った啖呵のかっこいいこと。ただ、これは香須美の物語のはずなのに、いつの間にか平佐が主人公になってしまっているのはどうしたことだろう。女落語家ならではの苦しみや怒りをもっと前面に出すべきではないか。もちろん彼女の葛藤を笑える噺に昇華するのを忘れてはいけないが、そのあたりもう少し脚本に工夫がほしかった。


謹慎中なのに女遊びを止めない平佐の放蕩三昧はまさに芸人の鑑。ストイックさとは無縁な天才肌で、どんな噺でも観客を釘づけにする魅力を持つ。そんな男が呪われた落語とどう向き合うかが後半のポイントになってしまい、ホールでの独演会はいつのまにか劇中劇に。男女の情念を描いたそれなりに面白い映像なのだが、そこでも香須美の存在はまったく無視されていて、彼女の落語界における現状や将来とは全く無縁だ。クライマックスはやはり香須美を中心にしたエピソードにするべきだった。


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