こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

コッポラの胡蝶の夢

otello2008-09-06

コッポラの胡蝶の夢 YOUTH WITHOUT YOUTH


ポイント ★★
DATE 08/6/16
THEATER 映画美学校
監督 フランシス・フォード・コッポラ
ナンバー 143
出演 ティム・ロス/アレクサンドラ・マリア・ララ/ブルーノ・ガンツ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


年若い者は自分が成功する夢を見るが、年老いたものは自分が成功した夢を見る。すべてを捧げて打ち込んできた仕事がたいした成果を得ることなく命が時間切れになる瞬間、脳内ホルモンが自分を理想の姿に変えてくれる。それは幻覚に過ぎないのだが、記憶の奥に眠る出来事から未来まで仔細によみがえらせて不思議なまでのリアリティを持つ。もう一度人生をやり直したい、そして今度こそ思い描いた結果を残したいと願う主人公のはかない夢。この世に未練を残させまいとする神の計らいなのか、肉体と精神を死の苦痛から解放しようとする遺伝子の作用なのか。


1939年、ブカレストの年老いた言語学者・ドミニクは雷に打たれて重傷を負うが、傷が癒えると肉体が若返っていた上に研究に必要なあらゆる知識が身についていた。やがて彼のうわさが広がり、ナチスの科学者に付回されてスイスに亡命する。


安らかな死を望むだけなら、もっと美しく心地よいビジョンだけを見せるはずだが、ここではドミニクの人生を途中からリセットする。凡庸な彼に若い肉体と優れた知能だけでなくある種の超能力まで与え、後半生をやり直させるのだ。言語の起源というおよそ解明不可能な分野で研究を積むが、別れた婚約者の生まれ変わりのような美しいシャーマンの協力を得て古代言語に触れることができても、謎はかえって深まるばかり。彼女がサンスクリット語古代エジプト語などを話す姿は「闇の奥」に迷い込んだようで、物語はスピリチュアルの彼方に飛んでいく。


やがて「名声」と「恋人」という欲しかったものを手にしても、ドミニクの心は満たされず、元の次元に戻ってくる。雪の中で野垂れ死にしているドミニクの手には1輪の赤いバラは、ついぞ結ばれることがなかった恋人のメタファーなのか。結局、幸福など追いかけても届かず、捕まえたと思っても手からするりと逃げ出す幻に過ぎない。人間の欲望の深さを描きたかったのだろうが、回りくどい語り口のせいでドミニクの苦悩がよく理解できなかった。


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