こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ファン・ジニ

otello2008-10-03

ファン・ジニ 黄真伊

ポイント ★★*
DATE 08/7/16
THEATER KT
監督 チャン・ユニョン
ナンバー 171
出演 ソン・ヘギョ/ユ・ジテ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


女としての手練手管や芸の熟練度ではなく、教養を売り物にする妓生。学者や高級官僚といった知識人たちの独占欲を掻き立てる。彼女の心をつかみ体を得ようとする男たちは、時に翻弄され時には破滅に追い込まれていく。上流の娘として育てられながら、その出自が暴露されたことにより自ら花街に身を沈めた女の、一途な愛とすさまじいまでの情念。父や夫という男の付属物としてしか扱われなかった身より、自分の意思で生きた後半生のほうが彼女にとって幸せだったに違いない。


両班の娘・チニは幼なじみの使用人・ノミと気持ちを通わせていたが、身分の違いを超えられない。チニに婚礼話が持ち込まれたとき、ノミは相手方にチニの出生の秘密を明かし破談にする。家族に絶縁されたチニはノミを後見人として、妓生としての人生を歩む決意をする。


身の回りの世話はすべて使用人任せである一方、屋敷からひとりで外出することもままならない。家と家を結びつけ、子を産むための戦略的道具でしかない貴族の娘の悲哀。下賤の身でもどこにでも行けるノミこそが彼女にとって自由の象徴だったに違いない。ただ、500年前の朝鮮でそこまで確固たる意志で己の道を選ぼうとする女性がいたのだろうか。アイデンティティを剥奪されて仕方なくとか、悪い男に騙されて妓生になったというほうがリアリティあったはずだ。現代的な思想でヒロインを美化している。


やがて義賊となったノミは指名手配され、子分の身代わりになって出頭する。地方長官のお気に入りになっていたチニは体と引き換えにノミの助命を請うが聞き入れられず、ノミは処刑される。生涯で愛したのはノミひとりという、チニの純粋さ。しかし、どうせ映画にするのなら、妓生となったことで特権階級に対する憎しみを抱き、自分に惚れた官僚の身代をつぶさせるくらいの悪女として描いたほうがカタルシスを得られただろう。テレビドラマではないのだから、もっと彼女のずるさやいやらしさといった人間的な一面が見たかった。


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