こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

悪魔のリズム

otello2008-10-13

悪魔のリズム

ポイント ★★
DATE 08/9/1
THEATER 角川
監督 ヴィチェンテ・ペニャロッチャ
ナンバー 212
出演 ルパート・エヴァンス/ナタリア・ヴェルベケ/サー・デレク・ジャコビ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


逃げても逃げても追いかけてくる忌まわしい過去。やがてそれは強迫観念となり主人公の心を圧迫する。捕虜収容所における虐待で深く傷つけられた元兵士が、その恐怖のくびきに押しつぶされていく姿が哀れだ。幻覚が入り混じった彼の主観映像はきわめて観念的で見るものを不安の淵に突き落とし、モノローグは救いようのない世界に絡め取られているようだ。ただ、この主人公の甘ったれた精神構造は何なのだ。苦悩を彼の免罪符にしようとしても、決して許されるはずはない。


キューバの海岸に漂着した男はマヌエラという女のもとに転がり込む。男はグアンタナモ基地から脱走してきたと語り、基地内の捕虜収容所でのアルカイダメンバーに対する厳しい拷問の記憶が彼を苦しめる。


その後、男はマヌエラと恋に落ち、島を出ようと彼女を口説く。そして、肉体の回復と共に捻じ曲げていた記憶が元に戻り、男の正体が明らかになっていく。この男、映画はさんざん虐待の被害者であるような描き方をしておいて、実は捕虜を拷問した挙句に死なせてしまった米兵だったというバカバカしいドンデン返し。要するに良心の呵責に耐えかねて現実から逃避した上に、別人格を作り上げていたのだ。なんという厚顔無恥、そこには死んだアフガン人への哀悼の気持ちはかけらもない。


マシューズというこの男、ゲリラが待ち伏せする前線で命がけの地獄を経験したというのならまだ理解できる。だが、彼がいたのは警備主体で戦闘はまず考えられない捕虜収容所。そこで捕虜を殺したのなら本来軍法会議モノ。戦争という狂気はマシューズのような普通の若者も殺人者に変えてしまい、彼もまたイラク戦争の犠牲者だといいたいのかもしれないが、この映画での彼の行為は戦争犯罪以外の何物でもない。こんな男は本来厳しく処罰されるべきなのに、ラストシーンではマヌエラとの間に子供をもうけて幸せな家庭まで作っている。なんか勘違いしていないだろうか。。。


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