こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ボーダータウン 報道されない殺人者

otello2008-10-23

ボーダータウン 報道されない殺人者 BORDERTOWN


ポイント ★★
DATE 08/10/18
THEATER THYK
監督 グレゴリー・ナヴァ
ナンバー 255
出演 ジェニファー・ロペス/アントニオ・バンデラス/マーティン・シーン/マヤ・サパタ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


経済のグローバル化で富める者はより裕福になり、貧しい者はさらに搾取される。メキシコ国境地帯のテレビ工場、それでも仕事があるだけマシと、米国向け製品を作る工員たちはわずかな現金収入を求めて低賃金の作業に就く。そんな彼らが年間に何百人も行方不明になり殺されているというのに、警察はまともに捜査せず、報道は権力に押しつぶされる。だが、いくら先進国と比べてまだまだ人権意識の低いメキシコといえども、これだけの殺人事件数を放置しておくことはできず、いかに強権政治でもここまで報道機関に弾圧を加えることなどできない。命がけでレポートするジャーナリストを描こうとする志の高さは買うが、題材が現実離れしすぎている。


米国国境に近いフアレスという街で働くエバは、勤務の帰りにバスの運転手とその仲間にレイプされるが奇跡的に生還する。この街に連続殺人事件の取材に訪れていた米国人記者・ローレンは地元新聞に訴えてきたエバを保護し、事件の裏にある真実を暴きだしていく。


被害者が5人や10人程度ならば「レイプ魔や変質者による猟奇的連続殺人」だが、なんとその数は計5000人以上。この人数をレイプした後に殺し死体を隠ぺいするには組織的かつ計画的でなければなしえないだろう。ならば殺人鬼も相当数集めなければ達成できまい。また、スラムの住人でもネットに接続できる環境を持つ者が一人でもいれば、北朝鮮のような独裁国家でもない限り、これほどの大事件を握りつぶせるはずがない。


結局、自由貿易協定をにらんだ米墨の政治家・財界人が、フアレスの悪評判を恐れて事件を闇に葬っていたという茶番。しかも、きちんと捜査するよりもみ消したほうが安上がりという意味不明の理由。普通に考えれば治安を強化して、安全で住みやすい街にしたほうが先進国も投資先として安心するのだが。「今は調査報道の時代ではない」という、権力に屈した編集局長の言葉だけはリアリティがあった。。。


追記:昨日来(2012/5/13〜)の報道を見るにこの作品に対する認識を改めなければなりませんが、鑑賞時は上記のような感想を持ったことは事実なので本文はそのままにしておきます。(2012/5/14加筆)