こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブーリン家の姉妹

otello2008-10-28

ブーリン家の姉妹 THE OTHER BOLEYN GIRL

ポイント ★★★
DATE 08/10/25
THEATER THYK
監督 ジャスティン・チャドウィック
ナンバー 260
出演 ナタリー・ポートマン/スカーレット・ヨハンソン/エリック・バナ/クリスティン・スコット・トーマス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


女が男たちの政争の道具だった時代、自分の手で未来を切り開こうとしたヒロイン。従うフリをして逆に操るのが女としての力量とばかりに、男たちを思い通りに動かす。一方で、愛を引き裂かれながらも運命を受け入れる彼女の妹。1人の王の愛憎に振り回される美しい姉妹の葛藤を、レンブラント絵画のような重厚かつ陰鬱な構図とライティングで語る。陰謀と密告、私欲と政略が入り乱れる宮廷で、実の妹すら敵に回すすさまじいい生きざまは、栄光の次代を生み出すために必要な発射台。その血こそがイングランドを欧州の覇者たらしめたのだ。


イングランド王・ヘンリー8世に取り入ろうとする新興貴族・ブーリンは娘のアンを愛人にしようと画策するが、妹のメアリーが王の寵愛を受ける。姉妹は宮廷に参内し、メアリーは王の子を妊娠するが体調を崩す。その間フランス仕込みの洗練された話術を身につけたアンが帰国、王の気持ちを引く。


頭の回転が速く利にさといアンと優しさと正直さを持つメアリー。父とおじが決めた結婚に従順でも、その後のたくみな処世術は、一見囚われの身のようで、実は己の生き方を通している。反面、出世と保身に明け暮れる男たちの窮屈そうなこと。一つ間違えば失脚・処刑が待ち受けている権謀術数の世界で、女たちの言動を正面からとらえ、歴史の行間に埋もれた女たちの感情を繊細に描く脚本が素晴らしい。


ヘンリーには王という地位ゆえ、近づいてくる娘は数多いたのだろう。だからこそ最初の出会いで気合いの入っていたアンよりも既婚のメアリーに興味を持つ。ところが帰国後のアンは王に気のない振りをして反対に追わせるという恋の駆け引きを身につけている。気のある振りをしたり冷たくあしらったり、意味ありげな視線を送ったかと思うと無理な要求を出したりと、アンの手練手管はまさに現代でも通じるテクニック。ただ、アンの小賢しさは見抜かれていて、正式な王妃にまで上り詰めても、ついに完全に主導権を握れなかったのが敗因。ヘンリー8世は女にだらしない暴君のようで、周囲の人間の心を見抜く、王としての資質も備えていたということか。。。


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