こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

七夜待

otello2008-11-05

七夜待

ポイント ★*
DATE 08/11/2
THEATER チネチッタ
監督 河瀬直美
ナンバー 268
出演 長谷川京子/グレゴワール・コラン/村上淳
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


周りの人々がタイ語やフランス語で何事か言い争っているのに、彼らの言葉がわからない日本人女性。その苛立ちが沸点に達してついにキレてしまう。自分だけが蚊帳の外に置いてきぼりにされて、物事が勝手に進んでいくときに彼女が感じる不条理な怒りが非常にリアルだ。意味不明のストーリーと共感できない登場人物、そして雑な撮影と脈絡のないエピソードの連続というこの映画を見ていると、ヒロインの気持ちがよく理解できる。河瀬直美監督は長谷川京子をわざわざタイにまで連れ出していったい何を描きたかったのか。


ひとりでタイにやってきた彩子は街で拾ったタクシーでホテルに向かうが、ジャングルの奥に連れて行かれ運転手に襲われそうになる。あわてて逃げたところでフランス人と出会い、女性マッサージ師のもとに保護される。


そもそも彩子はタイに何をしに来たのか。偶然逃げ込んだ家でマッサージを受けたら心地よくてそのまま居候するくらいだから、多分「自分探しの旅」。目的はやりたいことを見つける、期間はカネの続く限り。そんな中で、気の流れを整えるて心身ともに癒してくれる「タイ古式マッサージ」と出会ったということなのだろう。ゆったりとした時間の流れや煩わしい人間関係のなさが傷ついた心にフィットし、いつしか彼女も笑顔を取り戻していく。おそらくそんな作品を目指したと推測するが、あまりにも省略が多く物語が進むにつれて迷宮に深入りするようだ。


彩子を襲った運転手がマッサージ師と家族のような関係だったり、時々現れる出家中の僧侶に彩子が見とれたり、深夜に散歩して仏塔を見つけたり。後半はほとんど形而上学の世界と化し、映像に思考が追い付かない。一応タイ語やフランス語のセリフに日本語訳が付くのだが、もう言語も意味をなさなくなっている。最後にタイ語フランス語日本語で「愛」という言葉を口にするが、それは監督の強烈な自己愛であって、観客への愛ではないことは確かだ。


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