こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天国はまだ遠く

otello2008-11-10

天国はまだ遠く

ポイント ★★*
DATE 08/8/14
THEATER KT
監督 長澤雅彦
ナンバー 195
出演 加藤ローサ/徳井義実/宮川大助/南方英二
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


秋の気配が濃厚な景色はしっとりと落ち着いた奥行きのあるフィルムに収められ、深い緑と濃い赤が山奥の空気の透明感を醸し出す。そこはまるで体を動かすことで心の傷を治療していく癒しの場のよう。恋にも仕事にも疲れ果てたOLがもう一度希望を取り戻すなかで、彼女に誘発されるかのように人生に倦んでいた男も光明を見出す。むしろ手垢のついた題材ながら、湿気を含みながらも冷ややかな早朝の靄のようなすがすがしい映像が、不思議と安らいだ気分にさせてくれる。


日本海側の小さな駅にやってきた千鶴は、村でいちばんひなびた民宿を訪れる。その夜大量の睡眠薬を飲んで自殺を図るが失敗、宿の主人・田村の仕事を手伝ううちに、徐々に明るさを取り戻していく。


そばを打ち、魚を釣り、ニワトリを絞める。生きるということは他の生物の命をいただくということ。自分の命を絶とうとした千鶴は田村にそれを教わるうちにストレスから解放される。そして庭に寝転んで見上げる夜空には宝石箱をぶちまけたかのように無数の星が瞬いている。死なずにいるからこそ味わえる、自然を味わう気持ちと他人と触れ合うぬくもり。やがて日常に戻らなければならないと気付き、千鶴は投げ出したはずの生活に戻っていく。


その過程で千鶴は田村の過去にも触れていったりもするのだが、そこに至るまでの展開が非常にゆったりとして、退屈を覚える。もう少しエピソードにヤマを持たせるなり、劇的なシーンを挿入するなりして物語に起伏をつけないと、美しい田舎の風景や恋にも満たないほのかな感情の芽生えだけでは環境ビデオのよう。ピアノや小石、スケッチブックといった小道具の使い方も、登場人物の心理を象徴する何らかの伏線になるような工夫がほしかった。千鶴のトラウマとなった都会での体験だけでなく、田村の恋人との思い出などを挿入するなどして、現在と対比させることで、絶望からの再生というテーマも活きてくるのではないだろうか。。。


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