こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラット・フィンク 〜ボクのビッグ・ダディ〜

otello2008-11-22

ラット・フィンク 〜ボクのビッグ・ダディ〜 TALES OF THE RAT FINK


ポイント ★★*
DATE 08/10/9
THEATER ビクター
監督 ロン・マン
ナンバー 245
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


大手自動車メーカーが作った車ではなく、世界でたった1台しかない自分だけの車に乗りたい。その思いにとり付かれた男の無限の想像力が産む車のポテンシャル。それは速く走るよりもより目立つことに主眼が置かれ、奇抜な外観や塗装だけでなく、さらには空中に浮かぶ車まで製作しようとする。その過程で彼が作ったカスタムカーは世間に認知され、車体にほどこしたペイントはアートの域にまで達し、音楽やスポーツといった他分野にまで広がってゆく。


1950年代、LA郊外の街で古い自動車を自己流にチューナップするブームが起きる。少年時代から車いじりばかりしていたエド・ロスもそういった若者の1人だったが、愛車のボディに斬新なイラストを描いたことから一気に有名になる。


いつも明るい笑顔を振りまく人気者・ミッキーマウスの対極をなす下品で薄汚い緑色のネズミ、これがエドのシンボル。映画は自らの改造自動車を西海岸のカルチャーにまで昇華させたエドの半生を振り返り、反体制の精神こそが新たな創造を生むことを教えてくれる。後に車だけでなくTシャツにはじめてイラストをプリントし、グラスファイバーで形状の加工が自由になると透明ドームで運転席を覆うという突飛なものまで創作する。そこには好きなことを突き詰めてやる楽しさが満ち溢れ、まだ将来が明るく輝いていた頃の米国の香りが色濃く漂っている。


60年代の半ばになるとカスタムカーのブームは急速に衰退しエドも過去の人となる。しかし、彼の生み出した独特の画風はロックンロールの楽器を彩り、アニメやスケボーにまで強烈な影響を及ぼす。「変わり者であり続ける」。そんな生き方を地でいくエドは、変わり者が市民権を得てフツーになってしまうと、さらなる変わり者として次の変革を求めていく。その繰り返しがエドを反骨のカリスマたらしめているのだ。明るい太陽の下、他人の目を気にせず自分が楽しめればよいというカリフォルニアの自由な思想と文化が、エドの作品に非常によく反映されていた。


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