こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

私は貝になりたい

otello2008-11-26

私は貝になりたい

ポイント ★★
DATE 08/11/24
THEATER 109KH
監督 福澤克雄
ナンバー 286
出演 中居正広/仲間由紀恵/笑福亭鶴瓶/石坂浩二
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「上官の命令は天皇陛下の命令だ」と、躊躇している二等兵に向かって上官が言い放つ。止める者は誰もおらず、仕方なく磔にされた米兵に向けて銃剣を突き出す。この捕虜殺害事件において二等兵は責任を負うべきか否か。映画は善良な理髪師ですら人殺しをせざるを得ない状況に置かれる軍隊組織の狂気と、それが理解されない占領軍による一方的な裁判の理不尽さが産む悲劇を通じて反戦を訴える。しかし、田舎町の風景や空襲を受けた都市などの合成が稚拙なうえ、登場人物の過剰な感情表現がへたくそな紙芝居を見ているような気にさせる。


1944年、高知県の海沿いの村で妻子とともに理髪店を営む清水は召集を受けるが、配属先で米軍捕虜を処刑したことから、戦後、戦犯として逮捕される。そして下った判決は死刑。そんな中、わずかな望みを抱いて妻の房江は助命嘆願の署名を集めて回る。


米兵殺害を清水は一貫して否定する。本人の記憶では息絶えていた捕虜にかすり傷を負わせただけなのに、裁判では止めを刺したと認定される。ならば、彼の行為は誰の意志だったのかをもっと明確にすべきだ。大隊長だった矢野中将は「すべて自分の責任」というが、まだ戦後13年しか経っていないオリジナルのTVドラマが作られた時代には言えなかったことをもっと追求すべきだ。東条英機の悪口は言っても、いまだに昭和天皇の戦争責任については聖域扱い。これでは「上官の命令は天皇陛下の命令だ」というセリフを生きてこない。もう戦後63年も経っているのだから、50年前の脚本とは一線を画してもっと事の核心に踏み込んでほしかった。


また、剃刀を持つ清水や妻に彼らの長男がじゃれついたり、土佐湾に面しているはずの彼らの居住地が深い雪に覆われたりするシーンには疑問符が付く。清水を演じる中居正広も、テンションの高い前半はバラエティ番組の延長のようで新鮮味がなく、死刑におびえる後半もあまり苦悩しているようには見えない。まあ「生まれ変わるなら貝がいい」という名セリフだけは今も輝きを放っていたが。。。


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